歴史から紐解く再生可能エネルギー

~意外に知らない「電力系統マネジメント」の実際~


国際環境経済研究所主席研究員

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(ⅳ)再生可能エネルギーと信頼度維持の激突

 FIT制度を背景として、再生可能エネルギーは、技術的にも比較的参入容易な太陽光を中心に、加速度的に増加した。2016年末の太陽光発電の設備量の総合計は約3,761万kWだが、稼働率が13~14%程度と低いので、電力量の供給量としては5%程度である注2)。家庭用は約205万戸、戸建住宅における普及率は7.2%なので、設備量としてはそこそこ普及していると言える注3)
 一般に、環境にやさしい(発電時のCO2排出量が少ない)太陽光発電が普及することは、その高額な負担について国民の合意さえあれば、望ましいように思われるが、果たしてそうだろうか。
 1920年代から始まった電力系統のマネジメントは、(a)「最適に運転する発電機を決めること(メリット・オーダー)」、(b)「需要と供給のバランスを瞬時瞬時で一致させること(同時同量)」、(c)「(瞬時瞬時の一致のために)送電線ルートを確保しつつ運用すること」の3つから成り立っている。太陽光発電をはじめとする一部の再生可能エネルギーは、この(b)および(c)について、通常とは異なる難しさを持っている。
 では、具体的に、どのような難しさがあるのだろうか。それは、過去100年におよぶ「需要の変動に合わせて供給側が自在に変動して瞬時瞬時のバランスを一致させる」基本的枠組みに対して、太陽光や風力などの自然条件によって発電量が変動する再生可能エネルギーは、自らの発電量を自在にコントロールできないことに起因する。
 まず第一に、天候などの自然条件によって発電量が左右されることから、正確な発電量を予測することが困難な点である。電力会社では、可能な限り、発電量の予測の精度を高めようとするが、発電量が不足した場合に備え、揚水発電や火力発電等のバックアップ電源を確保することが必要になる。

出所:西村氏講演資料

(出所:西村氏講演資料)

 第二に、例えば、関西一円で曇りになった場合など、エリア全体での太陽光発電の出力の変動が大きいため、周波数の変動を抑え、既存の揚水・火力発電所等や、一部は蓄電池でカバーする。但し、蓄電池はコストが高い点が問題である。
 第三に、皆さんの家庭の電柱の近くなど、電圧の低いところ(配電系統)において、太陽光発電が多く入ると、電圧が上昇しすぎるという問題がある。

出所:西村氏講演資料

(出所:西村氏講演資料)

 具体的には、日本での適正電圧は101±6V(95ボルト~107ボルト)と決められていて、これに対して、太陽光発電設備に設置されている「パワーコンディショナー」が電圧を感知するようになっており、107ボルトより上回る場合は、自動的に系統から切り離して、発電しないようになっている。しかし、切り離しがあまり頻繁に発生してしまうと、太陽光発電の稼働率の低下を招く。例えば、新規の造成地で、150軒のうち120軒に太陽光のパネルを載せる場合に、その団地では相当なボリュームの太陽光発電の出力が予想される。昼間不在の家庭もあることからも、その団地には、電気を送るはずが、逆に配電系統に電気が送り込まれ、電圧が上昇してしまう事態となる。そこで、電力会社としては、こうした切り離しの回数を少なくするよう、太陽光発電が集中しているエリアには、「自動電圧調整器」という機械を電柱の上に設置し、自動的に電圧を調整することで、対策を講じている(下図の②参照)。加えて、配電系統の監視機能・制御機能を高度化することで、再生可能エネルギーの普及拡大に貢献しようと努力している。

出所:西村氏講演資料

(出所:西村氏講演資料)

(ⅴ) 今後の再生可能エネルギーの普及に向けた課題

 西村氏からは、「再生可能エネルギーと供給信頼度の激突」と題しながらも、実際には、再生可能エネルギーの普及拡大に向け、電力会社が技術の高度化により貢献すべく取り組む様子を紹介いただいた。同時に、「再生可能エネルギーの供給側のイノベーションの取組みだけでは、ドイツのように国民負担が増加する。とりわけ再生可能エネルギーを大量導入しやすい地理的特性を持つ地域では、電力の供給信頼度が犠牲になるケースもあり、蓄電池のような需要側の調整力についても、低コスト化に向けたイノベーションが必要」と締めくくった。
 再生可能エネルギーの普及拡大に向けた課題は、今回挙げた内容にとどまらない。現在、政府の審議会「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」注4)において、発電コストの低下、系統制約の解消、調整力の確保、事業環境の整備など、様々な課題が議論されている。
 重要なポイントは、これらの課題の解決に要する社会的費用は、最終的には国民が負担することになる点である。関西経済連合会が消費者に対するWebアンケートを実施したところ、FIT制度の内容や賦課金の負担額の推移について、残念ながら、一般の消費者には殆ど知られていないことが判明した注5)。今後、再生可能エネルギーの導入拡大にあたっては、FIT制度による賦課金の負担のみならず、かかる社会的総費用を最小化すべく、制度設計の全体像および国民負担の総額を早期に示され、国民の理解を前提としたうえで、導入を促進することを期待したい注6)

出所:資源エネルギー庁資料を基に作成

(出所:資源エネルギー庁資料を基に作成)

注2)
経済産業省「再生可能エネルギーの大量導入時代における政策課題に関する研究会」および「調達価格等算定委員会」資料
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment/saisei_dounyu/pdf/001_03_00.pdf
http://www.meti.go.jp/report/whitepaper/data/pdf/20180207001_1.pdf
注3)
太陽光発電協会「太陽光発電 2050 年の黎明」
http://www.jpea.gr.jp/pvoutlook2050.pdf
注4)
http://www.meti.go.jp/committee/gizi_8/21.html 参照
注5)
Webアンケート結果 http://ieei.or.jp/2017/12/expl20171218/
注6)
詳細は、関西経済連合会・意見書「2030年度のエネルギーミックスの実現に向けて」参照。
http://www.kankeiren.or.jp/material/20171214ikensho.pdf