日本の再生可能エネルギー普及を「真面目に」考える(その2)
──「日本版コネクト&マネージ」は機能するか
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
(「環境管理」からの転載:2018年5月号)
再生可能エネルギーを主力電源として活用していくにあたり、喫緊の課題として挙げられるのが送電線への接続問題であることは前回述べた通りだ。「鑿のみと言えば槌つち」といわれるように、電気は発電したら送電できなければ意味がない。一般の消費財も生産手段と流通手段の両方を確保しなければ意味がないのと同じだ。
現在わが国は、再生可能エネルギーの電気を高値で買い取ることによって再生可能エネルギーの普及促進を図っているが、これは発電設備に経済的インセンティブを与えるだけの施策であるので、送電設備投資を促す経済的インセンティブがないばかりか、発電設備と送電設備全体で考えて社会的なコストを最小化するといった視点は含まれていない。
再生可能エネルギーの導入が容易な安価な土地には、基本的に十分な送電設備がない。人口や産業が密集していないから土地が安価なのであり、そうした地域は当然電力需要も大きくない。過度な送電線投資は当然のことながらされてこなかった。そうした地域に再生可能エネルギーを導入しようとすると、送電線への接続問題というボトルネックが発生する。
これを解決するために、「日本版コネクト&マネージ」という手法によって既存の系統を最大限活用し、発電だけでなく送電を含めた全体コストの抑制を図ることを前提に議論が進められている。昨年夏ごろから急に登場した「コネクト&マネージ」あるいは「ノンファーム型接続」という言葉に戸惑う方も多いだろう。こうした新しい言葉で消費者を煙に巻いているような気すらする。
本稿では、こうした再生可能エネルギーの系統制約に関する議論をかみ砕くとともに、そもそもどういう考え方なのか、本当にこの制度が目指すように、社会の負担を抑制しながら、自然変動電源である再生可能エネルギーの電気を使いこなしていけるのかを考えたい。
送電設備投資判断の基本的な考え方
従前から電力会社では、発電設備が増えれば必然的に送電線の増強を行ってきたわけではない。そもそも、消費地の電力需要が伸びているようであれば、発電設備と送電設備を一体的にとらえ、費用対効果の高い設備増強を行う。しかし、消費地の電力需要が伸びておらず、したがって送る電気の量が増えないなら送電設備の増強はしないという選択をしてきた。電力需要が伸びていないのであれば、送電線に投資して、すべての発電所が発電した電気を送れるようにしたとて、送電線の稼働率が下がるだけだからだ。電力需要が伸びていないのであれば発電所を増設する意味もなさそうに思えるが、そうではない。わが国が再生可能エネルギーの導入を進めているのは、電力需要の伸びに対応しているのではなく(追加的にkWhを得ようとしているのではなく)、例えば火力発電を再生可能エネルギーへと、電源を差し替えることによる「燃料費削減」や「CO2削減」、「自給率向上」などの価値を求めてのことだ。送電線に投資すべきかどうかは、増強に要するコストと、電源を差し替えることによって生じるメリットとの見合いで行うべきであり、費用対便益の低い設備増強は回避しなければならないことは、基本中の基本である。
なお、再生可能エネルギー導入の費用は、全量固定価格買取制度に基づく「再生可能エネルギー賦課金」に加えて、送電設備の増強費用、再生可能エネルギーの出力変動をバックアップする火力等の調整費用(調整的な運転をすることによる燃料費の増など)の増加分となる。
コネクト&マネージとは
これまで述べてきた通り、電源差替えの場合に、送電設備の増強をせずにやりくりすることが「コネクト&マネージ」という考え方であり、これは再生可能エネルギー導入に限ったものではない。
わが国は、既存の大規模電源を再生可能エネルギーに置き換えるべく導入を促進しているが、主に導入されるのは送電設備の脆弱な地方だ。しかしだからといって、多額の費用と長い時間を要する送電設備の増強を待っていては進まない。再生可能エネルギーの導入を進めやすくするために、「コネクト&マネージ」、すなわち砕いていえば「再生可能エネルギーをできる限り既存の送電線につないでしまって、あとはなんとかやりくりしましょう」という考え方でいこうというわけだ。
やりくりといっても、送電線に流せる電気の量が電線の容量以上に大きくなるわけはないので、発電量が多くなり過ぎたときにはいずれかの発電所に発電を停止させる(出力抑制)ことを前提にするということだ。それが「ノンファーム(Non-Firm)型接続」で、これも砕いていえば「その発電所が発電する電気をすべてて引き取るということは確約できないことを了承の上であれば、送電線への接続はしますよ」ということだ。確かに、再生可能エネルギーの迅速な事業化には役立つので喫緊の対処としてやるべきだ。ただし、要は発電設備としては稼働率が低くなるかもしれないが、それでも良ければ使っていきましょうということにほかならない。せっかくつくった発電設備を抑制するというデメリットをどう最小化できるのかを考える必要がある。
「日本版コネクト&マネージ」で問題は解決するか(現在の議論とそこへの疑問)
現在、系統制約の開放に向けた議論が、「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会(以下、「再エネ小委」)」で行われ、ここで出された方針をもとに、電力広域的運営推進機関(以下、「広域機関」)が具体策を検討することになっている。しかし再エネ小委で示された方向性で、本当に再生可能エネルギー普及拡大に向けた「処方箋」となり得るのだろうか?
先に述べたように、コネクト&マネージにより、経済合理性のない送電設備への投資はなくなる(もしくは少なくなる)。一方でノンファーム型接続により、いずれかの発電事業者は出力抑制を余儀なくされることとなる。
社会全体で稼働率が低い発電設備を多く持つことになるわけだが、そのことによるデメリットを極力抑え、国民経済上合理的に運用するためには、燃料費の高い電源から抑制することが必要である。しかしながらそれぞれの電源の価格情報は事業者間の競争に関わる重要な情報であり、誰かがそうした情報を管理しているわけではない。そこで、その判断を卸電力市場を介して決定し、安価な電源から発電するような仕組みが「間接オークション」である。要は市場で決せられる電源の価格競争の勝負の結果を、送電線の利用についても適用するというわけだ。
我が国でも、地域間連系線注2)については、その有効活用の観点から今年度から「間接オークション」に移行することが既に決定している。地域内の送電網についても、同様の仕組みを導入し、燃料コストがかからず、1kWhの電気を追加的に生み出すコストがゼロに近い再生可能エネルギーが最大限に系統を利用できる仕組みにすべきではないだろうか。燃料コストがかからない再生可能エネルギーの出力を大きく抑制してしまうのではモッタイナイ。
しかしその移行は慎重に行われるべきだ。コネクト&マネージの導入により、発電するはずだった電力を抑制された事業者は別途代わりの電源を調達しなければならない。これに追加の調達費用が必要となるケースでは、当然既存系統利用者の反発が予想される。既存系統利用者は、その系統が使えることを前提として発電事業に乗り出したのであり、それがあとから制約されてしまえば事業の予見可能性を著しく欠くといわざるを得ない。従前の連系線運用が先着優先を基本としていたのは、発電事業者の予見可能性を確保することにより、適切な発電設備への投資を促すという意味もあった注3)。これまでのエネルギー政策に従って供給義務を負う事業者が行った発電設備への投資に一定の予見可能性を確保するのは当然であるし、ルール変更による不利益を一方的に負わせることは、合理的とはいえない。そのため、地域間連系線では間接オークション導入に伴う経過措置として、先着優先で連系線の容量を割り当てられていた既存系統利用者に対しては、前述の追加の調達費用(混雑費用)を還元することとしており、同様の仕組みを導入する必要があるだろう。
実は諸外国もこうした課題には悩みながら対応してきた。北米最大の地域送電機関(RTO)として知られ、米国13州とワシントンDC地域の電力システムを管轄しながら、卸電力市場も運営する独立系統運用機関(ISO)であるPJMの経験に学びたい。実は自由化当初は、系統制約により電源抑制が頻発していた。それを解消するため、間接オークション式を導入したが、その際既存系統利用者に対してその施設が廃止されるまで金銭的な補償をする経過措置を講じて対応をしたのである。
また、コネクト&マネージが導入されても、ノンファーム型接続により発電機の出力を抑制することがかえって全体のコストを上げてしまうことも考えられよう。この場合は、当然系統を増強し、発電抑制を解消せねばならない。しかしながら、現在、再エネ小委では、系統全体のコストを計算せずに、過去に実施した系統増強費用を上限に(一般負担の上限)それを認め、当該の発電事業者だけでなく、世間一般が広く負担するような仕組みが議論されている。これでは、せっかく総コストを最小化するためにコネクト&マネージを導入しても、無駄な系統増強コストのためにそのメリットが帳消しになるおそれもあるだろう。
まとめ
コネクト&マネージは、再生可能エネルギーの系統接続問題を解決する「魔法の杖」ではない。費用対効果の低い系統への投資を減らしつつ、安い電源が優先して発電するような制度設計を行うことで、国民の負担するコスト全体を下げることが重要である。
費用対効果を強く気にするのは、これから日本はただでさえ人口減少・過疎化の急速な進展によって、全国の送配電線が「赤字路線化」する恐れがあるからだ。設備の適切なダウンサイジングが喫緊の課題である中、発電・送配電のトータルで費用対効果の高い設備形成が行われるような制度設計を徹底する必要がある。電力需要が伸びない社会における電源差替えは、発電設備と送電設備へ投資を全体的かつ長期的に捉えて、対処すべき課題である。
- 注2)
- 連系線とは、系統制御区域を跨る送電設備のこと。欧州では国毎に一つの区域になっていることが多く、また、多くの点で連系されているのに対して、わが国では旧一般電気事業者ごとに一つの区域になっており、会社間をつなぐ連系設備が設けられていた。連系する箇所は少ないため、電気の潮流の管理は欧州より複雑でない一方、連系線の容量の制限によって広域での電力融通がしづらいという問題がある。
- 注3)
- 総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電力基本政策小委員会(第6回)‐配布資料6-2「地域間連系線利用ルールについて」
http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/denryoku_gas/kihonseisaku/pdf/006_06_02.pdf
- 【参考資料】
- 1)
- 連系線に係わる利用・混雑処理方法について~欧州の状況~日本エネルギー経済研究所 産業研究ユニット電力・原子力・石炭グループグループリーダー小笠原 潤一
http://eneken.ieej.or.jp/data/pdf/1028.pdf
- 2)
- 電力広域的運営推進機関「地域間連系線の利用ルール等に関する調査(平成28年度下期-海外調査)」最終報告書平成29年3月
https://www.occto.or.jp/iinkai/renkeisenriyou/files/renkeisen_kaigaicyousa_2016houkokusyo.pdf
- 3)
- 電力広域的運営推進機関「地域間連系線の利用ルール等に関する検討会」資料
- 4)
- 総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電力基本政策小委員会(第6回) 配布資料6-2「地域間連系線利用ルールについて」