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地球温暖化の科学的不確実性


キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹


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 問題の核心は、20世紀後半の温暖化のどこまでが自然変動で、どこからがGHG(正確にはGHGとエアロゾル)の効果による人為的な温暖化か、ということである。この図表3を見る限り、20世紀前半の温暖化と同様に、20世紀後半の温暖化もかなりの部分が自然変動に由来する可能性だって十分にあるように思える。そうすると、人為的な温暖化の寄与は少なかったことになり、つまり気候感度は低かったし、将来もあまり温暖化しない、ということになる。
 20世紀前半の温暖化はなぜ起きたのか、20世紀半ばの寒冷化はなぜ起きたのか。これが分からない限り、20世紀後半の温暖化がどのぐらい人為的な排出に依存しておきているのか、そして(将来の温度上昇の決定的要因である)気候感度は1.5度なのか4.5度なのか、といった肝心なことは分からない(Curry 2017)。

図表3 観測とGCMの計算との比較 (Curry 2017; IPCC 2013)

図表3 観測とGCMの計算との比較 (Curry 2017; IPCC 2013)

 IPCC では近年の温暖化がどのぐらい人為的な排出(GHGとエアロゾル)の効果に依存するのか要因分解もやっている。
 IPCC AR5 Figure 10.6ではこの期間の温度上昇を人為的な排出、エルニーニョ、太陽放射の変動などに線形に要因分解して、20世紀末の温暖化は大半が人為的な排出によるものであると推定している(図表4)。
 しかし、この要因分解も、20世紀前半の温暖化はやはり再現できていない。もしも「未知の自然変動」として、20世紀前半に温度上昇をもたらす要因があり、同じ要因が20世紀後半にも作用していれば、1970年以降の温度上昇への人為的な排出の寄与はもっと小さくなり、気候感度も低く推計されることになるはずである。
 なお、この20世紀前半の温暖化の要因分解はまだ出来ていないことはIPCC AR5の本文には記述してある(本来、これはFigure 10.6に書き込んでおくべきことと思う)注5)
 この要因分解の手法について、日本語での分かりやすい解説は(多田隆治「気候変動を理学する」、みすず書房、2017 p262)を参照。なお多田はこの手法について、「物理化学的な根拠は入っていない」「試みの例」であるとして、きちんと留保を付けている。

図表4 IPCC Figure 10.6。温度(a)がエルニーニョ(b)、火山(c)、太陽放射(d)、GHG(e)、大西洋数十年規模振動(AMO)(f)に線形に要因分解されている。

図表4 IPCC Figure 10.6。温度(a)がエルニーニョ(b)、火山(c)、太陽放射(d)、GHG(e)、大西洋数十年規模振動(AMO)(f)に線形に要因分解されている。

Tsonis(2017)は、地球の温度変化を

第1期:1880年から1910年迄:寒冷化
第2期:1910年から1943年迄:急激な温暖化
第3期:1943年から1976年迄:干満な寒冷化
第4期:1976年から1998年迄:急激な温暖化
第5期:1998年以降:    ほぼ停滞(ハイエイタス)

と分類して、その変化要因を考察している(図表5)。
 図を見ると、平滑化された地球の温度に比較して、地球の温度はだいたい10年規模ぐらいで上下している。これはエルニーニョ及び南方振動(ENSO)等の影響によるものであるが、Tsonisは、これらENSO等の非線形振動の相互作用の結果として、第1期から第5期に渡る数十年規模の温度変動が起きた、とする仮説を提唱した。考慮されたENSOに類似の非線形振動とは、Pacific Decadal Oscillation(PDO), North Atlantic Oscillation(NAO), North Pacific Index (NPI)である。Tsonisは、これらの非線形振動は相互作用しており、同期しかつ相互結合が増加する時期には、温度のトレンドが大きく変わった(図中緑線部)としている。この仮説が正しいとすると、近年の温度上昇も、その多くの部分がGHG以外の要因による可能性が出てくる。Tsonisはそれを定量化していないが、近年の温暖化におけるGHGの寄与は、直感では3割程度ではないかと思う、とニュースのインタビューでは答えている注6)。察するに、これは1度ないし1.5度といった低めの気候感度の値に相当することを言っていると思われる。
 このTsonisの機構のどこまでが正確かは別としても、図から分かるように10年規模の振動の振幅は結構大きく、それらが更に相互作用することによって数十年規模でもかなりの温度変動が、人為的な排出とは別の機構によって起きうるであろう、という指摘はもっともらしく思える。もし、この説を棄却するにしても、それではこの第1期から第5期に渡る数十年規模の振動の原因は何なのか、という疑問は相変わらず残ることになる。

図表5 地球の温度変化。青線:観測値、黒実線:観測値を平滑化したもの。黄色:振動が同期した時期。緑色:振動は同期し、かつ結合が強化された時期。 https://www.thegwpf.org/content/uploads/2017/09/Tsonis.pdf

図表5
地球の温度変化。青線:観測値、黒実線:観測値を平滑化したもの。
黄色:振動が同期した時期。緑色:振動は同期し、かつ結合が強化された時期。
https://www.thegwpf.org/content/uploads/2017/09/Tsonis.pdf

 観測とGCMの不一致はまだある(図表6)。2万年前から現在にかけては、氷期から間氷期へと移行し、地球の温度は大幅に上がり、その後1万年程度は安定している。だが(年輪や酸素同位体等といった代理変数(プロキシ)によって計算された温度の)観測データと、GCMの計算結果は一致していない。観測データは、1万年前から6千年前にかけては温暖で、その後寒冷化したとしている。この温暖な時期は日本の縄文海進期に重なっていて、現在よりも海面はかなり高く、温暖であったのは確かであったと思われる。しかしGCMはまだこれを再現できていない(あるいは観測データにも問題があるかもしれない)とされる。

図表6 The Holocene temperature conundrum (Liu et al. 2014) http://www.pnas.org/content/pnas/111/34/E3501.full.pdf

図表6 The Holocene temperature conundrum (Liu et al. 2014)
http://www.pnas.org/content/pnas/111/34/E3501.full.pdf

注5)
“It remains difficult to quantify the contribution to this warming from internal variability, natural forcing and anthropogenic forcing, due to forcing and response uncertainties and incomplete observational coverage”. (IPCC AR5 WG1 p887)
注6)
http://www.foxnews.com/science/2013/09/30/un-climate-change-models-warming.html
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