SDGsをどう捉えるか

-日本の環境・省エネの経験をもとに-


国際環境経済研究所理事長

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SDGsとは

 コロンビア大学のジェフリー・サックス教授が、「朝日SDGsフォーラム」(2017.11.28)で ”SDGs” について講演した。(朝日新聞、2017.12.13朝刊)
 教授は「貧困の終焉」(2005年)など開発経済学で有名だが、国連事務総長特別顧問(Director of the UN Sustainable Development Solutions)としてSDGsの策定に関わった。
 ジェフリー・サックス教授の発言をもとに、「われわれはSDGsをどう捉えるか」を考えたい。

 2015年9月、国連は2030年に向けて貧困の撲滅など17個の持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)を採択した。

 また、同年11月にはCOP21において、地球温暖化に対するパリ協定が採択された。
 これは、京都議定書のように一部の先進国に「トップダウン」で削減目標を割り当てるのではなく、中国を含めた世界中の国々が自ら作った目標を「プレッジ・アンド・レビュー」として掲げ、各国がそれぞれの状況に応じた取り組みをすることに意味がある。

 2015年のSDGsとパリ協定は、ともに「持続可能な発展」という大きな目標に向けて、世界各国がそれぞれのLocal Conditionを踏まえて取り組む点に共通点がある。

ジェフリー・サックス教授のSDGsについての考え

彼は17のSDGsを支える三つの柱として、

Economic Development
Social Justice
Environment

を掲げ、バランスの取れた発展を目指している。

さらに変革に向けて5つの大きな方向性を示している。

1.Low-Carbon Energy Transition
2.Sustainable Cities
3.Sustainable Agriculture and Land Use
4.Quality Health and Education for All
5.Innovation Society

 “Low-Carbon Energy Transition”については、石油、石炭、ガス等の化石燃料から、原子力、水力、風力、太陽光等の非化石燃料への転換を主張している。
 また、“Sustainable Cities” や ”Innovation Society“の実現にあたっては、かつて隣国が”Japan Model”として学んだ日本の科学・技術の経験を、今後とも他国の発展に役立てて欲しいと熱く語っていた。

日本企業の貢献の可能性

 日本経団連は、2017年11月、「企業行動憲章」を改定した。このなかで、民間セクターの創造性とイノベーションの発揮によってSDGsの達成を目指そうと述べている。
 http://www.keidanren.or.jp/policy/cgcb/charter2017.pdf

 日本は、高度経済成長の最中、大気汚染、水質汚濁などの公害に悩まされた。われわれ企業は環境汚染の加害者としての反省の上に立ち、環境技術の開発に取り組み、公害を克服してきた。
 (写真1)は、1960年代と1990年代を比較した北九州市の空と海の姿であり、失われた環境が復活しているのがわかる。
 (写真2)は中国・北京の大気汚染の状況である。発展途上国が経済発展を遂げる中で、環境汚染が発生する。北京のみならずインドのデリーなども環境問題に直面している。
 ジェフリー・サックス教授のEconomic DevelopmentとEnvironment の調和が、Sustainable Development にとって、まさに必要であり、日本はこれについてのソリューションを持っている。

写真1

写真1
(出典:北九州市)

写真2

写真2
(出典:CNN.co.jp

 また、我が国は、石油ショックを契機として、省エネルギーに取り組んできた。この結果として、現在も世界最高水準のエネルギー効率を誇っている。

出典:IEA Energy Efficiency 2017

(出典:IEA ”Energy Efficiency 2017”)

環境・省エネ先進国として、発展途上国に対する技術移転を

 我が国の民間セクターは、環境・省エネ技術を積極的に海外移転してきた。
 鉄鋼業における日中環境・省エネ交流については、藤本健一郎氏(日本鉄鋼連盟 国際環境戦略委員会 委員長、新日鐵住金株式会社)が書いている。
 http://ieei.or.jp/2017/12/expl171206/
 日本鉄鋼連盟は、中国鋼鉄工業協会(CISA)から、省エネ・環境保全に関する技術交流会の要請を受け、2005年7月以来、年1回のペースで日中鉄鋼業 環境保全・省エネ先進技術交流会を実施し、今年で第9回を数えるに至っている。
 こうした技術交流は、中国のみならず、韓国、インド、ロシア、ウクライナ,ブラジル等に及び、CDQ、TRTといった鉄鋼業の代表的な省エネ設備だけでも5,300万トン/年のCO2削減に貢献している。

(出典:日本鉄鋼連盟)

(出典:日本鉄鋼連盟)

(出典:日本鉄鋼連盟)

(出典:日本鉄鋼連盟)

 このように各企業、日本といった閉ざされた領域を超えて、我が国の経験、技術を世界に向けて積極的にトランスファーしていくことが、われわれのSDGsにとって望まれる。

目標は普遍的に、実行は各国の状況を踏まえて

 各国の産業構造はそれぞれ異なる。
 「カ-ボンプライシングに関する鉄鋼業の見解」(日本鉄鋼連盟)
 http://ieei.or.jp/2017/11/expl171130/
 では、鉄鋼業について日本とノルウェーの違いをとらえている。以下、引用する。


(図7鉄鋼生産と実消費(2013暦年))

(図7鉄鋼生産と実消費(2013暦年))

 「日本の粗鋼生産量は1億1,060万トン、ノルウェーの生産は61万トン。これを人口で割ると一人あたりの粗鋼生産は、日本は869㎏/人、ノルウェーは119㎏/人となる。これはモノを作る局面での数字である。ここから直接輸出入(鋼材の輸出入)と間接輸出入(自動車など最終製品等に組み込まれて輸出される鋼材の輸出入)を加味すると鋼材の実(ネット)消費量となる。日本は4,811万トン、ノルウェーは2,922万トンと算出される。ここに両国の産業構造の違いが見て取れる。
 日本は粗鋼生産1.1億トンに対して鋼材実消費が0.48億トン、粗鋼と鋼材の間の歩留まりを勘案しても半分以上が外需であり、加工貿易国の姿が明確である。対してノルウェーは61万トンの粗鋼生産に対して鋼材実消費は2,922万トン、特に間接分の鋼材輸入量が多く、自動車など鉄鋼製品を使用した最終製品を多く輸入している実態が浮かび上がる。この鋼材実消費を人口当たりで見ると日本は378㎏/人、ノルウェーは573㎏/人となり、人口当たり粗鋼生産では圧倒的に少ないノルウェーであるが、実消費では日本より大きい。つまりノルウェー国民は日本人以上に鉄鋼製品を沢山使用していることが分かる。自動車(鉄を使う最終製品)を例に見ると分かりやすい。ノルウェーでは自動車を1台も生産していないにもかかわらず、自動車保有台数は日本と同じ602台/千人である。
 (中略)
 炭素生産性というマクロ指標がある。炭素1トン当たり、どの位のGDPが生み出せるかという指標である。日本は炭素生産性がノルウェー等の北欧諸国等と比較して低い、つまり炭素1トン当たりから生み出されるGDPが小さい。この点を以って、日本の温暖化対策が劣っていると指摘する向きがある。
 しかし、前述の通り、自ら鉄鋼生産しなくとも鉄鋼生産国以上に鉄を使う国があることは、炭素生産性というマクロ指標だけ見ていても把握することはできない。モノづくりをする国とモノを他国から買う国を比較して、どちらが低炭素であるかを比較しても地球温暖化対策上の有意な解には繋がらない。」


 SDGsの取り組みでは上位にランクされる北欧諸国であるが、産業構造の違いを十分、認識する必要がある。

 一方、発展途上国にとって、SDGsの第一番目に挙げられている「貧困からの脱出」のカギは経済発展であり、このためには安いエネルギーの確保が必須である。
 先日、ミャンマーで、「経済発展には安定的な電力の確保が必要なのだが、なかなか投資が進まない」と伺った。
 「ミャンマーにおける電力分野の現状」(堀間洋平、日本貿易振興機構ヤンゴン事務所)
 http://ieei.or.jp/2017/12/expl20171222/
 発展途上国ミャンマーにとって、電力の確保は自然エネルギーだけではまかなえない。

 Globalな目標に対して、いかに(How)実現するかは、各国のLocal Conditionを踏まえる必要があり、みんなが同じ方法ではないとジェフリー・サックス氏も認めている。
 Economic Development, Social Justice, Environmentのバランスの取れた発展を目指すべきだろう。

体制の選択

 ジェフリー・サックス氏は、「35年前、通産省主導による日本の産業政策を羨ましいと思った。」と語っている。1980年代、レーガン政権下のアメリカは、小さい政府を標榜し、自由な企業活動に政府が干渉するのは反対であった。
 「ターゲットを決めて突き進んでいくことについて、今後、世界で一番実行力があるのは中国だ」と教授は語る。
 しかし、われわれ民主主義国家は、いろいろな意見を共存させ議論できる自由を大切にしている。
 SDGsの実現には、中国と比べると時間がかかるかもしれないが、自由と多様性を尊重し、一歩一歩、進んで行きたい。