再エネの出力変動対策は急務の課題

東北電力の現場を訪ねる


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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(「月刊ビジネスアイ エネコ」2017年8月号からの転載)

 2012年7月に固定価格買取制度がスタートして以降、再生可能エネルギー(再エネ)の導入が急拡大し、16年12月末時点の累積導入量は3366万kWになりました。このうち9割は太陽光発電ですが、系統運用を担う電力会社にとって再エネの出力変動対策は急務の課題です。東北電力の中央給電指令所(仙台市)などを訪ね、現場の状況を見せていただきました。


東北電力の 中央給電指令所

急増する再エネ

 再エネのうち、太陽光や風力発電は天候や自然条件によって出力が変動します。再エネの普及が拡大するにつれ、出力変動の影響が拡大し、発電電力と負荷のバランスが崩れて周波数変動につながることが懸念されています。周波数や電圧が変動すると、家庭、産業用の電気機器に不具合が生じるおそれがあります。そのため、各電力会社は電力の品質(電圧、周波数など)を維持するため、さまざまな対策に取り組んでいます。
 東北電力管内の電源構成(15年度実績)は、石炭火力と天然ガス火力がそれぞれ38%、石油その他火力5%、大型水力を含めた再エネは18%です。15年時点の日本全体の再エネ電源の割合(大型水力を含む)は14.6%ですので、東北電力の18%はかなり高く、政府が長期エネルギー需給見通し(エネルギーミックス)で示した2030年の再エネの割合(22~24%)にかなり近い数値となっています。

中央給電指令所

東北電力の系統監視盤

東北電力の系統監視盤

 東北電力の中央給電指令所を、橋本賀津雄副所長(当時)に案内していただきました。東北6県と新潟県に電気を送るコントロールセンターです。5人1組のチームで、3交替24時間体制で発電所、変電所、送電線を監視し、電力需要を予測しながら各発電所の発電量を調整し、電力系統の安定化を図っています。
 目の前には大画面の系統監視盤があり、管内の水力、火力などの発電所の発電量がリアルタイムで表示されています。周波数モニターを監視し、周波数を一定(50ヘルツ)に保つことが指令所の重要な役割です。
 周波数は供給力より電力需要が増えると下がり、需要が減ると上がります。電力会社では周波数が常に一定となるよう、電力需要の変動に応じて火力や水力発電機の出力を調整しています。

  「需給運用は、年間、月間、週間、1日ごとに立てた運用計画に基づいて計画的にコンピューターで制御しています。しかし、瞬間ごとに使われる電気の量に大きな変化が生じれば、最終的には人が判断し、各発電所の発電量を調整し、系統の周波数や電圧が一定に保たれるようにしています」
 「天候の影響を受ける太陽光、風力発電は、不規則に大きな出力変動があるため、発電計画からのズレや突発的な事態に迅速に対応しなくてはいけません。再エネの出力変動に合わせて火力や水力の発電量を調整していますが、再エネの普及が進む近年は、“供給量の変動”と“需要の変動”の両方を調整しなくてはならず、需給運用は非常に難しくなっています」
 出力監視モニターでは、24時間の運用計画と実際の発電量の変化をグラフで見ることができます。見学した当日は晴天でしたが、運用計画と実際の発電量のズレはほとんど見られませんでした。
 「太陽光の瞬間的な大きな出力変動は人が調整しますが、太陽光の出力に大きな影響を与えるのは日射量です。さらなる予測精度の向上を図るため、昨年より気象庁が配信する5kmないし20kmメッシュの気象予報データを基に、当日から週間にかけての日射量を予測し、太陽光発電設備の出力を予測しています」
 今年4月末現在、東北電力管内の太陽光の系統連系量は330万kW、風力は82万kW。今後導入される予定の系統連系承諾済みの太陽光は559万kW、系統連系候補者の風力は173万kWとなっています。さらに再エネを系統に受け入れるには、電力会社間をつなぐ連系線、基幹系統やローカル系統をそれぞれの特性を踏まえて増強する必要性が議論されていますが、当面は既存系統でいかに再エネの出力変動対策を行うかが重要です。

水素で再エネ出力変動対策

東北電力 研究開発センターの屋上に設置された太陽光発電設備

東北電力 研究開発センターの屋上に設置された太陽光発電設備

 再エネの出力変動対策として水素の活用を研究している東北電力の研究開発センター(仙台市)に移動し、小松原宏所長(当時)に案内していただきました。同センターの屋上には50kWの太陽光パネルが設置され、屋上から見下ろすと、水素製造装置、水素貯蔵タンク、燃料電池(9.9kW)、蓄電池(50kW)などからなる水素製造システムが整然と並んでいます。
 「屋上に設置した太陽光発電システムの電気で水素を製造・貯蔵しています。水素は燃料電池の燃料にして、研究開発センター向けの電力を発電しています。太陽光の出力変動のうち、周期の短い変動は蓄電池で吸収し、それ以外の変動は水素製造で吸収する仕組みです。蓄電池の長所を活かしつつ、水素製造を組み合わせてより効果的な再エネの出力変動対策の可能性を探っています。水素製造が、蓄電池と同様、出力変動対策として有効か2019年3月まで検証する予定です」

  このほか、再エネの出力変動対策として、西仙台変電所(仙台市)と南相馬変電所(福島県南相馬市)に大型蓄電地システムを設置し、実証を行っています。西仙台変電所では蓄電地の充放電によって供給量を細かく調整して周波数の変動を抑え、南相馬変電所では太陽光発電の余剰電力の一部を蓄電池に充電し、需給バランスの改善を図っています。
 国が再エネの最大限の普及拡大を目指す中、系統運用者にとって再エネのさらなる系統受け入れは頭の痛い問題でしょう。東北電力の現場を訪れ、需給運用の大変さを実感しました。と同時に、電力の安定供給のため、さまざまな対策に取り組む姿に信頼の念を持ちました。


自立型水素エネルギー供給システム
「H2One」


東北電力の研究開発センター内に並ぶ
「H2One」