福島第一原発訪問記(3)
旧エネルギー館から原発構内へ/避難指示解除・現場の労働環境
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
旧エネルギー館から国道6号線を北上すること30分ほどで福島第一原子力発電所に到着した。発電所正門の目の前でここまで乗ってきたバスを降り、構内への「入退域管理棟」に入る。この入退域管理棟に隣接して、9階建ての大型休憩所が設置されているため、まずこちらを見学させていただいた。2015年5月31日から運用開始した建物であり、2階には作業員の方たちが温かい食事をとることができる食堂も整備されている。
休憩所には2016年3月1日から、コンビニエンスストアのローソンもオープンしている注4)。店舗名はまさに「ローソン東電福島大型休憩所店」。ペットボトルのジュースやコーヒー、お菓子など品揃えは一般的なコンビニエンスストアそのものであるが、店員の方にお話を伺ったところ、この店のおにぎり、パン、スイーツの売り上げは福島県内で1位だそうだ。実際筆者らが訪れた14時半ごろにはおにぎりの棚が空になっていた。廊下に張られた食堂のメニューもボリュームのあるものが多く、一般的な社員食堂のメニューと比較すると若干カロリーも高いようだが、厳しい環境で作業してくださる作業員の方たちは、まさに「腹が減っては戦ができぬ」というところなのだろう。
しかし建物の強度を高め、中にいる人の被ばくを少しでも避けるために、この大型休憩施設にはほとんど窓が設けられていない。唯一窓のもうけられている7階からは構内を一望することができる。ニュース映像で目にする福島第一原発の原子炉建屋、林立する処理水タンクと共に、作業現場に向かう車両や人の動きも見え、廃炉に向けた作業が動いている現場であることを改めて感じた。
休憩所の見学を終え、入退域管理棟に戻り、構内の見学に向けた装備を整える。今回はバス車内からの見学でもあり、個人線量計と手袋・靴袋のみを装着すれば準備完了である。
構内を歩いている作業員の方たちにも、通常の建設現場のような装備で歩いている方も多い。もちろん未だエリアによっては全面マスクの装着が義務付けられているが、そうしたエリアが徐々に縮小してきたことは注5) 、作業員の方たちの負担軽減の観点からも大きな前進と言えるだろう。ちなみにこの時の入退域管理棟の線量は0.2μSv/hであり、装備を手伝ってくださったスタッフの内二人は女性であった。
ここで最も時間を費やすのが、見学者の本人確認の作業である。これは福島第一に限ったことではなく、すべての原子力発電所において、テロ対策などの観点から厳重な管理が行われており、事前に登録しておいた写真のある身分証明書を忘れた場合は視察に参加することが許されない。真偽は定かではないが、どこかの電力会社では社長が身分証明書を忘れて発電所に入ることができなかったという噂話もあるほどだ(参加者の身分証明書忘れを防ぐためのエピソードかもしれないが)。ここからは、構内視察用のバスに乗りこみ、構内を車窓からの見学となる。構内の様子は次回に譲ろう。
- 注5)
- 全面マスク着用省略可能エリアの 拡大に関する検討状況について
平成27年1月29日 東京電力株式会社
http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/pdf/150129/150129_01_3_4_02.pdf
次回:「福島第一原発訪問記(4)」へ続く