トランプ政権の環境エネルギー政策2017(2)
EPA(環境保護局)の予算削減
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
ワシントンD.C.で今年2月6日から一週間にわたり、米商工会議所や産業界、シンクタンクなどに、トランプ政権の環境・エネルギー政策の行方についてヒアリング調査を行った。その頃は、環境保護局(EPA:Environmental Protection Agency)の長官にトランプ大統領に指名されたスコット・プルイット氏が「controversial(物議を醸す)」な人物として、メディアで度々取り上げられていた。プルイット氏は地球温暖化対策に反対し、オバマ政権時にはEPAに複数の訴訟を起こすなど、規制反対の強硬派として知られていた。司法長官選挙戦で支援したエネルギー企業の訴訟にもしばしば加わっていた。
しかし、指名承認公聴会でのプルイット氏は、「気候変動がでっち上げであるとは思っていない。2009年のEPAによる『危険性の認定(Endangerment finding)』(温室効果ガスが人間の健康と財産を侵害するとした)に基づき、CO2排出の規制はEPAの義務だ」と、ポジションシフトとも思える発言をした。プルイット氏の長官指名について反対の声は強かったが、2月17日に賛成52、反対46で、上院で承認された。
長官就任後の3月9日、プルイット氏はCNBCテレビの番組に出演し、「CO2は温暖化の主な原因だと思うか?」とのキャスターの質問に対して、「CO2が地球温暖化の主因だという考えには同意できない。まだ我々には分からないことが多く、議論を続ける必要がある」と発言している。これに対して、環境保護団体や民主党議員から「EPA長官には不適任だ」と批判の声が出ている。また、マッカシー前EPA長官は米メディアのインタビューに答え、「ホワイトハウスに係わる研究機関やEPAの科学者の43%に解雇通告のメールが届いている。地球温暖化問題はこれ以上どんな情報の上積みが必要だというのか。トランプ政権は科学を無視するのか」と強く批判している。
EAPの予算は大幅削減へ
2月上旬のワシントンD.C.でのヒアリングでは、地球温暖化政策(気候変動政策)はトランプ政権におけるプライオリティが低く、環境保護局(EPA:Environmental Protection Agency)の大幅な予算削減の可能性が高いと言う声が多く聞かれた。やはりその通りにホワイトハウスでは物事が進んでいるようだ。
3月16日、トランプ政権として初めてとなる予算編成の指針、2018年会計年度「予算教書」の骨子が議会に提出された。トランプ大統領の提案として出された予算案は、議会による予算の策定のただき台になる。
America First – A Budget Blueprint to Make America Great Again
https://www.whitehouse.gov/omb/budget
予算案によると、国防費を前年度に比べて10%増やし、メキシコとの国境の壁など不法移民対策を担う国土安全保障省も7%増となっており、それ以外の予算を削減している。中でも、EPAは地球温暖化対策費を削り31%減の57億ドル(過去40年間で最低水準)、国務省など外交予算も28%の大幅な削減となっている。
これまで一部米メディアにリークされた情報によると、「機関実行計画(Agency Action Plan)の漏洩文書に、 EPAの「気候調査プログラム」の終了による節減額1億9300万ドル、「環境プログラムと管理(environmental programs and management)」による節減額1億900万ドルを含む、いくつかの予算削減について触れられていた。
詳細を記した予算教書は5月にまとまる予定だが、予算削減が実現すれば、EPAは全職員の19%に当たる約3200人の人員が削減されることになる。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、この予算案について、行政管理予算局(OMB)のミック・マルバニー局長は「沼地を干上がらせ、そこに全員を残したままにしておくことはできない。さまざまな政府機関で人員を削減しなければならないと思う」と述べている。
現時点での米メディアの報道を見る限り、議会は民主、共和両党ともトランプ大統領が提案する大幅削減を支持しないシグナルを発しており、調整が難航することが予想される。しかし、トランプ大統領の連邦法人税の引き下げ公約を実行するとなると歳入が相当減ることから、トランプ政権にとってプライオリティが低い分野(政策)の大幅削減は、最終的には不可避になると思われる。