再エネの現場を歩く

-再エネ全量固定価格買取制度(FIT)4年半を総括する-


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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<風力:送電容量の限界>

わが国で風力発電のポテンシャルが高い場所は、北海道と北東北の日本海側に集中している。

環境省「平成22年度 再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書」環境省「平成22年度 再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書」注4) より[拡大画像表示]

 筆者が訪れたのは北海道苫前町。新千歳空港から車で4時間弱かかる日本海に面した「風の町」である。冬の間は特に風が強く、筆者が訪れたこの日も風速約20メートルを記録する中、撮影が行われた。強風と痛さ(寒いのではない。痛いのだ)で10分撮影しては車で暖を取ることを繰り返した涙の撮影秘話はまたどこかでお話ししたいが、上空から町の風力発電の全景を撮影するはずが、強風のため1週間以上ドローンを飛ばすことができず、取材スタッフは私が帰京した後も現地で粘り続けていたことだけはお伝えしておきたい。
 風と共に生きてきた地域であり、風力発電の導入にもいち早く取り組み、現在町が事業主体となっている3基の風力発電(苫前夕陽ヶ丘風力発電所・風来望)は平成10年~12年にかけて稼働開始したものである。この発電所のデータは町のホームページで公開されている注5)

【2016年03月 〜 2017年02月の発電状況】【2016年03月 〜 2017年02月の発電状況】[拡大画像表示]

 2016年度の平均風速は約5メートル、設備稼働率は平均すれば約20%であるが、月ごとのばらつきが大きいことがわかる。その理由は主に風況の季節変化であるが、それだけではなく設備トラブルの多さも影響している。町の風力発電のメンテナンスを担当する方から伺った話では、冬場は強い風が吹き、それ以外の季節はぴたりとやむこともあるという状況は機器に大きな負担がかかる。日本の風の吹き方の特色を踏まえずデンマーク製の風車を導入したため相当の設備トラブルに悩まされ、運転開始当初1年半ほどデンマークのメーカーから担当者がここに常駐していたとのことだった。これは先行者の苦悩であり、こうした経験による知見の蓄積が今後のわが国における再エネ普及拡大には貴重な財産となるだろうが、担当者の方にとってはそれどころではないようだった。
 さらに今後風力発電を普及させていこうとすると問題になるのが、送電線の容量である。この問題はFIT導入当初から指摘されてきた問題であり、例えば東京大学公共政策大学院の研究チームは、再生可能エネルギーの導入拡大に向け、送配電など技術的・制度的課題を含めていくつかのシナリオを描いて検討し、①送電容量・送電線不足、②Ramping注6) 対応調整電源不足、③変電設備事故時および電源脱落時の周波数安定度劣化の3項目への対処が必要であり、特に①の問題には早く着手すべきであることを説いている注7)
 しかし送電線整備は莫大な投資と長い時間を必要とする。北海道・東北に590万kWの風力が導入された場合に、必要な投資は1兆1700億円との試算もあり注8) 、太陽光や風力の導入が進む北海道や九州では既に大きな導入制約となっている。しかも自然変動であるため送電線の利用率が低くなり、kWhあたりの送電コストが高くなることも懸念される。再エネ大国と言われるドイツでも、送電線が通ることによる景観悪化等を気にする住民の反対により整備が遅々として進まず、「Power Grid Expansion Act(送電網拡大法)」を制定して、手続きの簡素化を図るも、2016年までの進捗率は約35%に留まっている。
 

<日本の再生可能エネルギーの今後を考える>

 いま筆者が全国を講演等で回る中で聞く声の多くは、FIT賦課金の負担が急増していることへの戸惑いと反発である。確かに制度導入当初に政府が示した見通しとの乖離が大きすぎるし、増え方も急すぎる。その主要因は設備認定全体の95%近くを占める太陽光であり、政府は改正FIT法により2MW以上のメガソーラーには入札制度を導入することとした。しかし入札制度を導入するのであれば、FITを廃止してRPSに戻せばよいのである。FITは20年間等の長期にわたり固定の価格で買い取るという硬直的な制度である。RPSはFITより競争促進的であり、安い電源の導入を促す効果がある。2030年のエネルギーミックスという達成すべき目標に向けて、「価格規制」であるFITを改めて見直し、「量的規制」であるRPS注9) の活用など、再生可能エネルギー普及政策のあり方そのものを見直す時期だと言えるだろう。
 「再エネをとにかく増やす」というFIT導入を議論していた当時の価値観からは卒業すべきだ。地域と共生しながら、国民負担を最大限抑制しながら、普及拡大を図らなければ、再エネは国民の支持を失うことになる。典型的なのが太陽光であり、バブルと呼ばれる状況を生み出した一方で、今回の取材で、「地域で商売しているので言い出せないでいるが」と口ごもりながら、「これ以上ソーラーパネルに覆われる土地になってほしくないし、もしやるのであれば事業者の顔が見えるようにしてほしい。」と訴える方にも出会った。再エネの普及拡大は息長く取り組むべき課題であることを、現場を見て回ることで改めて考えさせられた。エネルギーは現場を見て考え、語るべきである。

注4)
http://www.env.go.jp/earth/report/h23-03/chpt4.pdf
注5)
東日本大震災を踏まえた 電源構成の転換を実現するためのシナリオと方策に関する研究
http://www.town.tomamae.lg.jp/section/kikakushinko/lg6iib0000006edc.html
注6)
低気圧通過のような広域の気象変化に起因する発電出力の長時間変動
注7)
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h25/pdf/1ZF-1201.pdf
注8)
「再生可能エネルギー導入に伴う 系統安定化費用の考え方について」 http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/004/pdf/004_07.pdf
注9)
「再生可能エネルギー政策論」エネルギーフォーラム社 2011年9月 朝野賢司 P222

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