再エネの現場を歩く

-再エネ全量固定価格買取制度(FIT)4年半を総括する-


国際環境経済研究所理事・主席研究員

印刷用ページ

 2012年に導入されたFITの大きな欠陥は、地域との共生が全く考慮されていなかったことだ。特に太陽光発電は風力発電等と異なり環境アセスメントが要件とされず、設備認定は事業者と経済産業省(経済産業局)だけで手続きが進んでしまったため、自治体としては設備ができて初めて事業の存在を認識するという事態も頻発した。電気事業法で太陽光発電設備に求められる風荷重などを考慮しない施工によって、地域でトラブルとなった事例も少なくない。

強風による事故事例(資源エネルギー庁資料より)

 そのため本年4月からは認定制度が大きく変更される。接続について電力事業者の同意がとれていることが要件となると同時に、事業計画策定ガイドラインにより地域や関係省庁に適切に情報提供が行われる仕組みが採られた。具体的な変化としては例えば、再エネ事業はこれまでの「設備認定」から「事業計画認定」となる。メンテナンスや設備の撤去・処分まで含めた事業計画全体を確認することとされ、事業計画策定に関するガイドラインでは自治体との事前協議も求められる。これは既設の設備にも遡って適用されることとなっており、事業者が最後までその設備に責任をもってくれるのかという地域の方たちの不安を軽減することを目指している。
 これはFITによって急増した再エネ設備と地域住民とのトラブルを軽減するという観点から大きな進歩ではあるが、あくまでガイドラインであること、また、莫大な数に上る再エネ事業計画の認定について自治体がどこまで人的資源を配分できるのかという課題もある。平成24年7月から28年11月までの認定件数は約204万件である。
 さらに言えば、設備の撤去・処分まで含めた事業計画全体を確認するとされるが、撤去・処分に必要なコストを事業者が確保しているかどうか確認する制度は導入されていない。原子力発電所については、廃炉に必要なコストを運転期間中に積み立てることが義務付けられており、早期廃止となった場合に一度に多額の特別損失が発生する仕組みであることの改正が図られたが、そもそも再エネについては撤去・処分に要する費用も賦課金に算入しているもののその費用がプールされているかどうかの監視は行われていないのである。再エネ事業者の数の多さなどから、コスト確保を確認する制度の運用が難しいようであれば、廃棄を義務付け、これに違反した場合罰金や刑事罰を科すことも検討に値するだろう。この点については、今後さらなる制度改正が必要になる。

<地熱発電拡大のカギは事業リスク低減>

 太陽光や風力とは異なり、地熱発電は高くて安定的な稼働率が特徴である。前出の発電コスト検証ワーキンググループでは83%と設定しており、この稼働率は再エネ電源の中で専焼バイオマスに次ぐ高さである。また、発電のみならず熱を地域の施設で有効利用して、トマトなどの野菜を栽培したり、牛乳の低温殺菌をするなど様々なコベネフィットを得ているケースもある。
 世界第3位の地熱資源を有するわが国としては、積極的に導入を進めたいベースロード電源である。さらに、地熱発電のタービンは日本メーカー((株)東芝、富士電機(株)、三菱日立パワーシステムズ(株))の世界シェアが約7割と圧倒的な強みを有している。しかし、わが国における地熱発電の現在の設備容量は約52万kW、発電電力量に占める割合はわずか0.2%に過ぎない。
 その第一の理由はまず、事業リスクの高さにある。地熱発電に必要な蒸気を取り出すには、雨水が地下に浸透していき、マグマだまりで温められた「地熱貯留層」まで井戸を掘ることが必要になるが、この地熱貯留層が位置するのはだいたい地下1~3kmであるとされる。探査技術を尽くして地下の状況を推測し井戸を掘る訳だが、貯留層にたどり着ける保証はない。FIT導入当時、地熱発電の賦課金算定にあたっては、他の再エネ電源よりリスクが高く、投資額が相対的に大きいことから高い投資収益率が認められていた(各電源の税前IRRは規模により、太陽光は6%もしくは3.2%、風力は8%もしくは1.8%なのに対して地熱は13%)。さらに、7,500kW以上の地熱発電はリードタイムが10年程度かかるとされ、事業者の負うべきリスクを低減するための政策的支援が必要となる。
 そのため政府は、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)やJOGMEC(独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構)を通じて、技術研究開発や地熱資源開発調査への支援、地熱発電開発費等への補助金交付や、事業に対する直接的な出資・債務保証も行っている。4地熱発電の拡大を支援するためにはその事業リスクを緩和することが必要だが、そのためのコストも国民が負担していることは認識しなければならない。
 さらに、運転開始後も安定した運転には多くの知見が必要とされる。まず、蒸気の取り出しと還元のバランスをとることが必要であり、蒸気を取り過ぎてしまえば地熱資源の枯渇を招いてしまう恐れがあるという。また、配管の中にシリカ(二酸化ケイ素)が付着するため、それを定期的に落とすメンテナンスが必要となる。個々の井戸によって異なるが、特に温度の低下した熱水を地中に戻す還元井は析出しやすく、シリカが付着しやすい。適切なメンテナンスを行えば数十年の利用も可能な場合もあるが、付着がひどい井戸はそうもいかない。経験に裏打ちされた適切なメンテナンスがあって初めて安定的な運転が可能になるのだ。
 また、温泉事業者などとの軋轢がしばしば報道されている通り、地元理解の獲得も地熱資源利用の障壁となり得る。そのため政府は地熱開発理解促進事業支援補助金制度を設けるなど支援を行っている。
 筆者が訪問した九州電力株式会社八丁原発電所は、1977年6月に1号機が、1990年6月には2号機が運転開始した。事業用としては、2キロ離れた大岳発電所(1967年)に次いで全国で5番目に運転開始した地熱発電所である。地熱発電というものがまだ一般的に理解されていない時代であり、さらに近隣の筋湯温泉は開湯が西暦958年と1000年以上の歴史を持つ温泉地であったため、源泉の湯温や湯量に変化が無いことをデータで提供し続け、理解を得てきたという。
 さらに、近隣の負担にならないような配慮も多く施されている。例えば筆者が訪れた時には半年に一度の蒸気の処理設備の点検中であり、地熱貯留層から取り出された蒸気は設備に送られず大気に放出されていた。しかし、大量の蒸気が吹きだす際の轟音を緩和するため、サイレンサーが備えられていたため、設備のそばでも大声を出せば十分会話ができる程度であった。近隣と言っても人の住む集落までは相当の距離があるが、自然の音しかない静かな山中にある施設なので、「違和感のあるものはできる限り軽減し、近隣の方やこの自然を求めて訪ねてこられた方のご負担にならないようにしている」(八丁原発電所西田所長)とのことだ。こうした配慮の積み重ねの成果であろうが、筆者が滞在した宿で働く方からも、大岳や八丁原は「あるのが当たり前」であり、それよりもむしろ見学者等の来訪による地域経済へのメリットを強調する声が聞かれた。

右奥の方に蒸気の吹き出し口があり、勢いよく蒸気が噴出していたが、撮影スタッフとの会話も可能であった(筆者撮影)

 しかしFIT導入後、地熱事業者の参入が相次ぎ、地域住民とトラブルになった事例もある。例えば鹿児島県指宿市では2014年度3月に「指宿市温泉資源の保護及び利用に関する条例」を定め、地熱発電事業者に対し、事業計画等を市に提出し、あらかじめ市の同意を得ることなどを求めている。
 地熱発電は発電方法としては優れているし、ポテンシャルもある。しかしそう急拡大するものでもない電源だというのは、まさに現場を訪れてみればよくわかるのである。