気候変動問題を信じないトランプ大統領

再エネは支援 ‐ 太陽光発電には冷淡だが風力発電・蓄電設備は増強?


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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 トランプ大統領の気候変動問題に関する態度は基本的に「懐疑論」だが、気候変動が人為的な現象で発生していることも少しはあると、選挙期間中から認めていた。また、パリ協定からの離脱を選挙期間中には訴えていたが、大統領選出後のインタビューでは、「オープンマインドで考えたい」と慎重な態度を見せている。
 大統領就任後は、ホワイトハウスのホームページから気候変動に関する情報を即座に削除し、情報は全てオバマ前大統領のアーカイブに移された。いまは、次のページで見ることが可能なだけだ。
https://obamawhitehouse.archives.gov/the-record/climate
 さらに、環境庁(EPA)のホームページから気候変動に関する情報の削除を行うようにとの指示もだされた。加えて、EPA職員は、公用、私用を問わず、SNSでの情報の発信を禁止された。EPAの匿名職員の情報により報道機関がこの指示内容を知ることとなり、新聞報道が行われたところ、翌日EPAのホームページからの情報の削除については、指示が撤回された。今も、EPAのホームページ(https://www.epa.gov/climatechange)では気候変動に関する情報を見ることが可能だ。

 自給率100%を目指し、化石燃料増産支援のトランプ大統領は、炭素に価格を付けるなどの温暖化対策にも当然反対しているので、オバマ前大統領が推進した二酸化炭素削減策、クリーンパワープランを反故にし、国内の温暖化対策を一切行わないことは確実だ。ただ、再生可能エネルギーについては、投資・雇用の観点から支援を行うようだ。
 一方、パリ協定からの離脱については、依然態度を明確にしていないが、米国内の報道では、気候変動問題を含め国連への拠出金を大幅に削減することは確実とされている。オバマ前大統領は国連のグリーン・クライメイト・ファンドに拠出を約束していた30億ドルの内、離任直前に2回目の5億ドル(1回目と合わせ計10億ドル)を拠出したが、残り20億ドルの拠出は行われないだろう。

 EPAに続きエネルギー省でも、少なくとも太陽光関連プログラムに携わる約50名のスタッフに対し、公用、私用でのSNSの使用を禁止する指示が出された。太陽光に関しては慎重な姿勢のトランプ政権だが、風力、蓄電設備には投資を行う可能性が高そうだ。
 トランプ政権が重視する50のインフラ事業リストが、一部のマスコミにより報道された。総額1370億ドルの投資額になっている。まだ案の段階なのか最終リストなのかも、はっきりしていないが、全米知事協会の依頼により、各州政府がトランプの政権移行チームに提出したリストとほぼ同じ内容になっていると報道されている。リストの中には電力関係の次の7事業が含まれている。

オクラホマ州の風力発電からの電力をテネシー州に送る送電線事業
水力発電所の能力増強
ワイオミング州の風力発電の電力をカリフォルニア州、ネバダ州、アリゾナ州に送る送電線
ワイオミング州での300万kWの風力発電プロジェクト
ウエスト・バージニア州からノースカロナイナ州へのガスパイプライン
ニューヨーク市に電力供給を行う100万kWの水力発電プロジェクト
カリフォルニア州での蓄電装置導入と送電線近代化

 ワイオミング州議会には、州内の電力供給を再エネから行うことを禁止する法案(再エネ推進法は多くあるが、禁止法は世界初だろう)が今年になり共和党議員から提出されたが、州内の風力発電設備建設にトランプ政権は支援を行うようだ。ペリー・エネルギー省長官は、テキサス州知事時代に風力発電を支援し、テキサス州を全米一の風力発電設備の州に押し上げた。一方、太陽光発電には冷淡だった。トランプ政権も同様の指向のようだ。

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