温暖化問題でも釈明するトランプ候補
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
10月9日夜(日本時間10日)に行われた米大統領選第2回の討論会では、トランプ候補の女性蔑視発言が注目されたが、トランプ候補は、「ロッカールームでの会話」として非難をかわす姿勢を見せた。トランプ候補が過去の発言について釈明するのは、これが初めてではないし、第1回の討論会では温暖化問題に関する過去の自身の発言を否定し、非難を浴びている。
2012年の大統領選挙時、温暖化問題が討論会の議題になることはなかったが、9月26日に行われた第1回の討論会では、クリントン候補が持ち出した。米国の雇用についての議論のなかでクリントンが、経済成長と雇用を実現できる分野としてクリーンエネルギーを例に挙げ、「トランプは温暖化問題を中国が作り出した悪ふざけとしている」と口火を切った。
これに対し、トランプは「そんなことは言っていない」と否定したが、2012年11月に「地球温暖化の概念は、米国製造業の競争力を奪うために、中国のために中国により作られたものだ」と彼自身がツイートしている。このツイートは削除されていなかったので討論会の間に最も多くリツイートされることになった。トランプは自分のツイートを否定し、ウソをついたと報道されることになった。
いままで、トランプは何度か温暖化問題について発言している。例えば、2013年12月のツイートでは「綺麗で美しい空気に‐高いコストをかけず、事業を閉鎖することがなく‐力を入れるべきだ。地球温暖化はインチキだ」と述べている。しかし、大統領選を意識したのか、最近は発言内容を変え、中国が気候変動を作りだしたとの発現については冗談で言ったと釈明している。
今年1月のテレビ番組では次のように述べている「気候変動は、非常に高い税だ。多くの人が利益をあげている。環境の賞を受賞したことがあるので気候変動についてはよく知っている。気候変動は中国の利益になると時々冗談をいうことがある。中国は気候変動問題のために何もしていない。燃やせるものは何でも燃やしている。環境基準に意味はない。気にもしていない。ただ、価格は米国よりも安く、米国の事業にとっては厳しい状況だ」。
今年3月のワシントンポスト紙のインタビューでは、気候変動について問われ、概ね次のように答えた「気候は変わっていると思う。ただ、私は人為的要因で気候変動が生じていると熱烈に信じている訳ではない。多少の影響はあるかもしれないが」。
気候変動問題に関連し、第1回の討論会でクリントンは「米国を21世紀のクリーンエネルギーの超大国にする」として5億枚の太陽光パネルを導入することにより雇用、経済に寄与すると述べたが、トランプは、かつて連邦政府が太陽光パネル事業への投資を行い失敗した事例(ソリンドラ社に対する連邦政府の融資保証を指すと思われる)をあげ、政府予算も赤字のなかでクリントンの提案は実現不可能と反論した。
共和党は化石燃料支持の立場であり、トランプも石炭火力を削減するオバマのクリーンパワープランには反対し、大統領に就任すれば石炭火力発電所の閉鎖を進め石炭生産量の削減を迫る政策を見直すと明言している。クリントンは当然クリーンパワープラン強化、再エネ推進の立場だ。
しかし、もし、トランプが大統領に就任したとしても、減少を続ける米国の石炭生産が復活するかどうかは不透明だ。2011年からの生産量は図の通り、波を描きながら減少している。今年1月から6月の生産数量は対前年同期比26%減の3億3000万トンと大きな落ち込みになっている。発電所渡しの天然ガスの価格が石炭価格よりも実質的に競争力があれば、電力会社は石炭ではなく天然ガスの活用を続けると考えられる。政策と市場が絡み合う問題だけに舵取りは難しい。
一方、クリントンの再エネ導入政策も、現状のコストでは電気料金の引き上げにつながり、米国産業の競争力に大きな影響を与える。電気料金を抑制しつつ再エネ導入を進める魔法はいまのところない。欧州諸国が散々苦労してきた道だ。
どちらが大統領に就任しても、産業の競争力と地域経済を維持しつつ、エネルギー・環境政策を推進することが簡単でないことだけは、はっきりしている。