温暖化対策の基礎知識
運輸部門の温暖化対策
浅川 和仁
一般社団法人 日本自動車工業会 環境統括部長
本稿では、運輸部門の温暖化対策の概要について解説します。
1) 国際的なCO2排出量削減対策
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- 人々の生活・活動によって発生する温室効果ガスのうち、CO2(二酸化炭素)の排出量はその大半を占め、地球温暖化を始めとした気候変動の大きな原因とされており、地球温暖化対策は世界全体の課題の一つです。
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- 昨年11月末に開催されたCOP21(地球温暖化に関する国連の会議)で2020年以降の新たな地球温暖化対策の枠組みである「パリ協定」が採択されました。
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- これにより、これまで先進国がメインだったCO2排出量削減対策から、新興国・途上国も含んだ196ヶ国・地域が自主的に削減目標を設定することとなり、文字通り世界として地球温暖化対策に動き出しました。
2) 日本の対策
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- 「パリ協定」の採択を受け、日本も2020年以降の温暖化対策を取りまとめました。
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- 2030年度時点で2013年度の温室効果ガス排出量を日本全体で26%削減する目標を掲げられ、運輸部門(自動車、航空、船舶、鉄道)においてはCO2排出量を約28%削減する目標が設定されました。(図1)
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- 運輸部門から発生するCO2排出量のうち約9割は自動車からですが、自動車そのものの燃費の向上やトラックの輸送効率などの向上により排出量は2001年度をピークに減少傾向にあります。
(図1)[拡大画像表示]
3) 自動車の対策
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- 自動車からのCO2排出量はガソリンや軽油の消費量に比例します。つまり、燃費の改善がCO2削減につながります。日本の自動車産業はこれまでCO2排出量の削減のために数多くの技術を地道に積み重ね、燃費性能の良い自動車や環境に優しい次世代自動車の開発・投入を進めてきました。
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- これらの自動車の開発・普及だけでなく、下記の通り自動車が使われる道路環境の整備や適切な運転のし方が浸透することで自動車本来の性能を発揮することができ、CO2排出量削減効果に結びつくと考えています。
① 自動車の燃費性能の向上、次世代自動車の普及
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- これまで自動車メーカーは従来の自動車のエンジン効率の向上、車体の軽量化、タイヤの転がり抵抗・空気抵抗の低減等といった技術を積み上げ、燃費性能の良い自動車を開発してきました。
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- それだけでなく、ハイブリッド自動車、クリーンディーゼル自動車、プラグインハイブリッド自動車、走行時にCO2を排出しない電気自動車、燃料電池自動車等(図2)の次世代自動車も市場投入してきました。
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- 次世代自動車の普及にはこれまで購入者に対して政府から補助金が出され、環境性能に応じた減税などの優遇措置が施されてきました。こういった施策もあり、2015年度の乗用車の総販売台数において、5台に1台はハイブリッド自動車となっています。
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- 昨年、政府により2030年度のCO2排出量削減目標の達成に向けて期待のかかる電気自動車、プラグインハイブリッド自動車、燃料電池自動車の更なる普及に向けて2030年の普及・販売台数目標と達成に向けた車両価格の低減、原動力となる蓄電池の性能向上、充電設備の拡充、新たな補助金施策等の計画が取りまとめられました。
(図2)[拡大画像表示]
② 交通流対策(自動車が使われる環境の整備)
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- 自動車の平均速度と燃費(CO2排出量)には関係性(図3)があり平均速度が低下すると燃費が悪化するため、交通渋滞を緩和させ交通流の円滑化を図る必要があります。例えば、人・道路・自動車の間で情報の受発信を行い、道路交通が抱える事故や渋滞等を解決する高度道路交通システム(ITS)、信号制御の高度化、高度ナビゲーションシステムといった対策の検討が進んでいます。
(図3)[拡大画像表示]
③ エコドライブの推進(自動車を使う側の対策)
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- 2030年までの各国CO2排出量削減目標が設定される中、日本は、運輸部門でのCO2削減量対策として「エコドライブ」を明記しています。
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- 性能の良い自動車があっても、その自動車本来の性能を発揮するには最終的には使う側の意識が大事です。そこで燃費向上に最適な運転方法について記したものが「エコドライブ10のすすめ」(図4)です。
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- 緩やかにアクセルを踏んで発進する、車間距離にゆとりをもって加減速の少ない運転をする、減速時には早めにアクセルを離すといった簡単なアクセルワーク等、今からでも簡単に実践できて、即効性があります。また、こういった運転は安全性の向上にもつながります。
(図4)[拡大画像表示]
4) 統合的なアプローチ
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- 2030年の日本全体の温室効果ガスの削減目標は、様々な部門の達成努力が積み重なり成り立つものです。
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- 運輸部門においても上記①~③に示したように、自動車メーカー、行政、ユーザーの皆さんをはじめ自動車に関わるあらゆる機関、関係者がそれぞれの取り組みを推進していくことが必要です。