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第4回 温暖化対策は経済界が主体的に取り組むことが重要〈前編〉

日本経済団体連合会環境安全委員会地球環境部会地球温暖化対策ワーキンググループ座長/住友化学株式会社レスポンシブルケア部主幹 村上 仁一氏


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授


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パリ協定の評価

――COP21のパリ協定では、資金提供、市場メカニズムの活用、進捗状況の把握、イノベーションの重要性などが決定されています。自主的取り組みで地球温暖化問題の解決を進めている経団連の立場から、パリ協定の結果をどう評価していますか?

村上 仁一氏(以下、敬称略):まず基本的な考え方を2つ申しあげます。1つめは、パリ協定がアメリカ・中国を含むすべての主要排出国が気候変動対策に取り組むことを約束する歴史的な国際枠組みとなった点であり、高く評価をしております。

村上 仁一(むらかみ・まさかず)氏。

1978年3月
東京大学農学部畜産獣医学科卒業
同年4月
住友化学工業株式会社入社(現、生物環境科学研究所)
1989年11月
米国立癌研究所 研究員
1992年 4月
住友化学工業株式会社 生命工学研究所 兼 地球環境産業技術研究機構 主席研究員
1999年4月
住友化学株式会社 技術経営企画室 主席部員
2001年6月
同 生物環境科学研究所 主席研究員
2006年6月
同 人事部 担当部長
2009年10月
同 レスポンシブルケア室 主席部員
2012年2月
同 レスポンシブルケア室 兼 気候変動対応推進室 主幹
2016年4月
同 レスポンシブルケア部 主幹
*2014年1月
経団連 環境安全委員会 地球環境部会 地球温暖化対策WG 副座長
*2014年7月
同 地球温暖化対策WG 座長

 また、2つめは、各国が自ら目標を設定し、定期的なレビューを通じて実効性を高めるいわゆる「プレッジ&レビュー」のアプローチが採用されたことです。これは、日本の経済界が1997年からの「環境自主行動計画」、さらに2013年からの「低炭素社会実行計画」を通じて、長年実践し、成果を挙げてきたプロセスと全く同じアプローチということで、高く評価をしているところです。(図1)

図1図1 出典:経団連[拡大画像表示]

 その上で、今後の課題として、次の3点を挙げたいと思います。まず1つめが「批准」です。京都議定書の教訓を踏まえますと、パリ協定の実効性を担保する上で、米・中をはじめとする主要排出国がパリ協定に確実に批准することが不可欠になろうかと思います。日本としても、各国の動きを十分に見極めた上で国内における批准手続きを進めるべきであり、京都議定書の二の舞とならないようにすることを強く願っています。

 2点目の課題は、「レビュー」です。各国の対策の実効性と国際的公平性が確保された形で継続的にレビューする体制を整備する必要があります。その際には特定の基準年からの削減率や削減量を検証するだけではなくて、セクター別のエネルギー効率や、経済的に利用可能な最善の技術、いわゆるBAT(Best Available Technology)と言われるものの導入状況、また限界削減費用などボトムアップの観点で多面的なレビューを行うべきです。日本はこれまでの「プレッジ&レビュー」の経験や知見を国際社会に積極的に発信することによって、パリ協定の実効性を高めることに貢献すべきだと思っています。

 最後の課題として「資金面」の問題があります。先進国のみならず新興国を含めた資金拠出を促す仕組みの構築も重要です。今回のパリ協定では先進国のみ資金支援が義務付けられ、新興国を含む途上国は自発的に支援を行うとの記載にとどまっていますが、新興国も含めて資金を集める仕組みをいかに作り上げていくかが、今後の課題であろうと思っています。

長期目標の2050年80%削減は議論が不十分、ゼロベースで検討するべき

――COP21の合意を受けて、国内対策として今年5月「地球温暖化対策計画」が閣議決定されました。「地球温暖化対策計画」に対して経済界の評価は?

村上:日本が約束草案として提出した「2030年度までに2013年度比26%削減」、この中期目標は他国に比べてまったく遜色ない野心的な目標であると考えています。国際的な法的拘束力はありませんが、その達成に向けて、真摯な努力を行う必要があります。

 また、今回の「地球温暖化対策計画」は約束草案に盛り込まれた対策を着実に実行することを掲げ、経済界の対策の柱として「低炭素社会実行計画」を位置付けている点は高く評価したいと思います。経団連は関係業界の協力を得て、「低炭素社会実行計画」に着実に取り組んでいくつもりです。一方で、経済界の意に反して、十分な議論もなく「2050年80%削減」という長期目標を記載したことは非常に遺憾であると考えています。

――長期目標は議論が十分になされていないと・・?

村上:まず、約束草案で示した2030年の削減目標とは異なり、2050年目標は具体的な対策の裏付けがありません。そもそも「2050年80%」という数値は、東日本大震災以前に掲げられた目標ですが、震災以前、政府は原子力発電の推進を通じて、CO2の大幅な削減を目指す方針を掲げており、2010年6月に閣議決定された「第3次エネルギー基本計画」においても原子力を含むゼロエミッション電源比率を2020年までに50%以上、また2030年までに約70%とすることを明記していました。しかし、震災により我が国のエネルギー政策は大きな転換を余儀なくされ、原子力という切り札を使えなくなってしまいました。本来なら震災後のエネルギー事情の変化を踏まえて、ゼロベースで再検討すべきだと考えています。

 また、2030年以降の長期目標について、パリ協定では、世界全体の平均気温上昇を産業革命以前より2℃より十分低く保つとともに、1.5℃以下に抑える努力を追求することを明記しています。これは世界全体で実現すべき目標ですから、世界に占める温室効果ガス排出量シェアが3%に満たない日本が、一国のみでの削減率を掲げることは不適切であると思われます。やはり日本としては世界最高水準の省エネ、低炭素型の技術や製品、これらを海外に展開するなどを通じて、世界規模での削減に貢献していくべきではないかと考えています。

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経済界の温暖化対策の柱「低炭素社会実行計画」

――温暖化対策計画で、経済界の対策の柱と位置づけられた「低炭素社会実行計画」ですが、これまでの経緯や成果などについて具体的な取り組みは?

村上:だいぶ遡りますが、1992年、ブラジルのリオデジャネイロで、地球サミット(環境と開発に関する国連会議)が開催されました。この地球サミットに先立ち、経団連は、企業が地球規模の環境問題の解決に真剣に取り組むことが我が国の経済・社会の健全な発展を促すとの認識のもと、1991年4月に「経団連地球環境憲章」を制定しました。その後、地球環境憲章を受けて、経団連は「地球温暖化」「循環型社会形成」「自然保護」の3つの分野を中心に、取組みを深化させることになります。とりわけ、経済界の地球温暖化分野への自主的な取り組みとして、1997年の京都議定書採択に先駆け、同年6月に「経団連 環境自主行動計画(温暖化対策編)」を策定しました。

 この「環境自主行動計画」に参加した産業分門、エネルギー転換部門では、京都議定書第一約束期間におけるCO2排出量の平均を「1990年度の水準以下に抑える」という統一目標を掲げ、PDCAサイクル注1)を回しながら、主体的な削減努力を行ってまいりました。その結果、1990年比12.1%減と、目標を大幅に超える削減を実現し、大きな成果を上げることができました。(図2)

注1)
PDCAサイクルとは:行動プロセスの枠組みのひとつ。Plan(計画)、Do(実行)、Check(確認)、Act(行動)。
図2図2 出典:経団連[拡大画像表示]

 さらに京都議定書第一約束期間の終了後も、経済界は温暖化対策の手綱を緩めることなく、2020年度と2030年度に向けた「低炭素社会実行計画」を策定しました。この計画では、従来の「国内での排出削減」に加えて、「製品による削減などの主体間連携」、「国際貢献」、そして「革新的技術」の4本の柱を位置づけ、PDCAサイクルを推進しながら地球規模かつ長期にわたる温暖化対策に取り組んでいるところです。この「低炭素社会実行計画」は、毎年度、第三者評価委員会によるレビューを通じて、不断の改善を続けています。また今年は、過去3年間(2013~15年)の取り組み状況を総括する中間レビューを実施する予定です。

後編に続く)

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