第4回 温暖化対策は経済界が主体的に取り組むことが重要〈前編〉
日本経済団体連合会環境安全委員会地球環境部会地球温暖化対策ワーキンググループ座長/住友化学株式会社レスポンシブルケア部主幹 村上 仁一氏
インタビュアー&執筆 松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
――長期目標は議論が十分になされていないと・・?
村上:まず、約束草案で示した2030年の削減目標とは異なり、2050年目標は具体的な対策の裏付けがありません。そもそも「2050年80%」という数値は、東日本大震災以前に掲げられた目標ですが、震災以前、政府は原子力発電の推進を通じて、CO2の大幅な削減を目指す方針を掲げており、2010年6月に閣議決定された「第3次エネルギー基本計画」においても原子力を含むゼロエミッション電源比率を2020年までに50%以上、また2030年までに約70%とすることを明記していました。しかし、震災により我が国のエネルギー政策は大きな転換を余儀なくされ、原子力という切り札を使えなくなってしまいました。本来なら震災後のエネルギー事情の変化を踏まえて、ゼロベースで再検討すべきだと考えています。
また、2030年以降の長期目標について、パリ協定では、世界全体の平均気温上昇を産業革命以前より2℃より十分低く保つとともに、1.5℃以下に抑える努力を追求することを明記しています。これは世界全体で実現すべき目標ですから、世界に占める温室効果ガス排出量シェアが3%に満たない日本が、一国のみでの削減率を掲げることは不適切であると思われます。やはり日本としては世界最高水準の省エネ、低炭素型の技術や製品、これらを海外に展開するなどを通じて、世界規模での削減に貢献していくべきではないかと考えています。
経済界の温暖化対策の柱「低炭素社会実行計画」
――温暖化対策計画で、経済界の対策の柱と位置づけられた「低炭素社会実行計画」ですが、これまでの経緯や成果などについて具体的な取り組みは?
村上:だいぶ遡りますが、1992年、ブラジルのリオデジャネイロで、地球サミット(環境と開発に関する国連会議)が開催されました。この地球サミットに先立ち、経団連は、企業が地球規模の環境問題の解決に真剣に取り組むことが我が国の経済・社会の健全な発展を促すとの認識のもと、1991年4月に「経団連地球環境憲章」を制定しました。その後、地球環境憲章を受けて、経団連は「地球温暖化」「循環型社会形成」「自然保護」の3つの分野を中心に、取組みを深化させることになります。とりわけ、経済界の地球温暖化分野への自主的な取り組みとして、1997年の京都議定書採択に先駆け、同年6月に「経団連 環境自主行動計画(温暖化対策編)」を策定しました。
この「環境自主行動計画」に参加した産業分門、エネルギー転換部門では、京都議定書第一約束期間におけるCO2排出量の平均を「1990年度の水準以下に抑える」という統一目標を掲げ、PDCAサイクル注1)を回しながら、主体的な削減努力を行ってまいりました。その結果、1990年比12.1%減と、目標を大幅に超える削減を実現し、大きな成果を上げることができました。(図2)
- 注1)
- PDCAサイクルとは:行動プロセスの枠組みのひとつ。Plan(計画)、Do(実行)、Check(確認)、Act(行動)。
さらに京都議定書第一約束期間の終了後も、経済界は温暖化対策の手綱を緩めることなく、2020年度と2030年度に向けた「低炭素社会実行計画」を策定しました。この計画では、従来の「国内での排出削減」に加えて、「製品による削減などの主体間連携」、「国際貢献」、そして「革新的技術」の4本の柱を位置づけ、PDCAサイクルを推進しながら地球規模かつ長期にわたる温暖化対策に取り組んでいるところです。この「低炭素社会実行計画」は、毎年度、第三者評価委員会によるレビューを通じて、不断の改善を続けています。また今年は、過去3年間(2013~15年)の取り組み状況を総括する中間レビューを実施する予定です。
(後編に続く)