2030年すべての照明をLED化
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
目標達成のため、経産省と環境省が具体策を検討
COP21で採択されたパリ協定を受けて、日本では今年5月に「地球温暖化対策計画」が閣議決定されました。2020年に温室ガスを2005年比3.8%減以上、2030年に2013年比26%(2005年比25.4%)減、2050年までに80%減の長期目標を達成するため、経産省と環境省が具体策を検討しています。
地球温暖化対策計画では、2030年の削減目標達成に向けて、民生部門(業務・家庭)のエネルギー起源のCO2の排出量を約40%削減する必要があるとしています。(運輸部門は28%、産業部門は7%の削減率)この高い削減目標を達成するためには、実効性ある施策を確実に行っていくことが必要です。民生部門の削減対策として、住宅や建築物の断熱性の向上など、建物自体の省エネを進める一方、家庭やオフィス、工場などでLED等の高効率照明を2030年度までにストック(既設)で100%導入する目標が掲げられています。(図4)
2015年7月に策定した2030年度のエネルギーミックスでは、徹底した省エネ(=石油危機後並みの35%効率改善)や再エネ最大導入(=現状から倍増)などの目標を設定しました。このエネルギーミックス実現のためには総合的な政策措置が不可欠であり、関連制度の一体的な整備を行うため、経済産業省は、「エネルギー革新戦略」を今年4月18日に策定しています。エネルギー革新戦略に基づき、エネルギー投資を促し、エネルギー効率を大きく改善させ、「強い経済」と「CO2抑制」の両立の実現を目指しています。ここでも、「徹底した省エネ」が目標として掲げられ、2030年度までにLEDなどの高効率照明をストックで100%にする目標が掲げられ、今年度以降に照明のトップランナー基準の対象を、白熱灯などを含め拡大する方針です。
また、今年5月31日に閣議決定した環境省の平成28年版「環境・循環型社会・生物多様性白書(環境白書)」では、全ての国が温室効果ガスの削減義務を負う新たな国際枠組み「パリ協定」の合意により、温暖化対策は「新たなステージ」に入ったとして、国内ではLED照明の導入を加速させるなど、対策強化の必要性を強調しています。今後の日本の方向性として、政府による強力な支援のもと、LED照明の品種数は拡大し、高効率化と低価格化が進み、既存の蛍光灯などの照明の大部分がLED照明にシフトしていくと思われます。
弘前市、防犯灯1万8000個をLED化
家庭や業務部門でのLED化を進めるためには、国民レベルの取り組みとともに、自治体が公共施設や設備への普及を積極的に進めていく必要があります。青森県弘前市の取り組みを参考までに紹介したいと思います。
弘前市は、「弘前型スマートコミュニティ構想」の取り組みの一環として、青森県内で初となる、市内の約1万8000灯の防犯灯のLED化をESCO(Energy Service Company)事業として行いました。ESCO事業とは、民間の資金やノウハウを活用して 既存庁舎等を改修し、省エネ化による光熱水費の削減分で経費等を償還し、残余を施設所有者と ESCO事業者の利益とする事業のことです。ESCO事業のメリットは、施設所有者は初期投資が不要で、後年度の負担増なしで、省エネ化と光熱水費削減、また、CO2排出量削減による温暖化対策を図ることができることです。省エネルギーの改修にかかる費用は、省エネルギー化によって節減されたエネルギーコストの一部から償還されるのが一般的です。
今回のLED化事業において、弘前市は、地元が主体となったESCO事業者(弘前地区電気工事業協同組合)と10年間の定額サービス契約を結びました。ESCOサービス委託契約期間中の維持管理(電気代を除く)はESCO事業者が実施し、契約期間中の省エネルギー効果について保証します。これにより、これまで防犯灯の維持、管理を担ってきた各町会の経済的、かつ労働的な負担が軽減され、弘前市全体で年間約3000万円の電気料金が圧縮されました。住民たちからも「夜道が明るくなった」と好評だといいます。(図5)
図5 設置されたLED防犯灯は、市の『管理番号』で管理されている。出典:弘前市
長寿命で消費電力が少ないLED防犯灯に切替えることで、住民に対して安全・安心な夜間の明るさを提供し、さらに電気代や修理費用の削減、CO2削減などのメリットが地域にもたらされます。こうしたESCO事業でのLED化の取り組みが、今後各地に広がっていくことが期待されます。