都市型清掃工場は開放的でおしゃれ!
災害時は地域エネルギー供給拠点に
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
(「月刊ビジネスアイ エネコ」2016年6月号からの転載)
東京都武蔵野市(人口約14万人)は、「住みたい街ランキング」にもよく登場する「吉祥寺」を擁する都会のベッドタウンで、緑豊かな環境に恵まれています。市内唯一の清掃工場(ごみ焼却施設、不燃・粗大ごみ処理施設)が建て替えられ、周辺環境と調和した美観を備え、災害時には地域エネルギー供給拠点にもなる施設として生まれ変わります。
新武蔵野クリーンセンター(仮称)
1984年に建てられた清掃工場が建て替え時期を迎え、2013年10月から「新武蔵野クリーンセンター(仮称)」(敷地面積1万7000m2 )の建設工事が、現施設の東側で進められています。新工場は来年4月から本格稼働し、2019 年6 月に煙突改修工事と新管理棟の工事が終わると再整備が完了する予定です。
一般的に清掃工場(ごみ処理施設)というと、市町村の中心部から離れた場所に建てられることが多いのですが、武蔵野市の清掃工場は市の中心部、市役所本庁舎と道路を挟んだ隣に建てられ、周囲に住宅地が広がる環境にあります。
武蔵野市環境部クリーンセンター・新クリーンセンター建設担当主任の神谷淳一氏にこれまでの経緯をうかがいました。
「現清掃工場の建設では、用地の選定段階から市民参加による検討を行い、建てた経緯があります。それから約30年が経ち、再整備の時期を迎えましたので、周辺住民の方々の理解と市民参加による議論・検討に基づき、施設をどういう形にしていくかを決めました」
新施設には、最新鋭の設備を導入し、全国で最も厳しい排ガス自主規制値を設定しています。また、現施設は、ごみを燃やした熱で蒸気をつくり、市役所や総合体育館(公立中学校プール)に送り、給湯や冷暖房、温水プールの熱源に活用されていますが、新施設には、新たにごみ発電設備(抽気復水タービン、最大出力2650kW)を設置することにしました。さらに、東日本大震災を教訓に、非常時にも対応できる「ガス・コージェネレーション設備(ガスタービン発電機、最大出力1500kW)」の導入を決めました。
清掃工場で、ガス・コージェネレーション(熱電併給)を併設するのは全国初の試みです。
建設工事現場を見学
さっそく工事中の現場に案内してもらいました。地上部の鉄骨工事も進み、清掃工場のプラント設備の組み立ても着々と進められています。地上3階・地下2階建てで、建物と煙突の構造は、耐震基準の1.25倍高い安全性を有しています。
「新施設につきましては、周辺住民の方々と検討を重ねた結果、高さを約15m程度に抑え、凸凹を減らし、4つの面を表にしたコンパクトな設計にしました。外壁は自然素材のテラコッタルーバーと壁面緑化を施し、『武蔵野の雑木林』をイメージしたデザインになっています。他の清掃工場にはない外観が大きな特徴です」(神谷氏)
外観は美術館のようなイメージで、一般的なごみ処理施設とはまったく異なる印象です。緑多い周辺環境に違和感なく調和し、景観と建築デザインに配慮していることを感じさせます。
施設内は、プラットホーム(収集車がごみを搬入する場所)を地下化し、焼却施設(焼却炉+ボイラー)の一部の機械を地下に設置しています。
「多くの清掃工場では、緊急時の電力を確保するために非常用発電機(油炊きディーゼル発電機が主流)を装備していますが、災害時に系統電力が途絶した場合、発電機の能力の制約を受けて焼却炉を再稼働することができません。また、非常時だけの使用となると、経済性の問題があります。そこで私たちは、大地震などの災害時に強いインフラである都市ガス中圧導管から供給を受けるガス・コージェネレーション設備を採用しました。これにより、災害時にはブラックアウトスタート機能で起動させて電力を発生させ、焼却炉の再稼働が可能になります」(神谷氏)