先進エネルギー自治体(7)
福岡県北九州市〜地域変電所が防災性強化のカギ、水素の実証も
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
水素を活用した非常用電気供給の実証
東田地区では「北九州水素タウン」の実証も進められています。工場で製造した水素をパイプラインで市街地に安定的に供給し、一般家庭・商業施設・公共施設のエネルギーとして本格的に利用する取り組みです。純水素型燃料電池注2)をコミュニティレベルで利用する実証は、世界初です。(図5)
図5 東田地区「北九州水素タウン」の概要 出典:北九州市
北九州水素タウンの中でも、防災・減災の側面から注目されるのは、次の2つの実証実験です。
(1) 燃料電池自動車から住宅への電気供給(FCV2H)
(2) 燃料電池自動車から非常用電気供給(FCV2L)
(1)の実証では、戸建て住宅に燃料電池自動車から電力を供給し、電力ピークカットに貢献する電力平準化の方法として、水素活用の新たな可能性を探ります。
(2)の実証では、燃料電池自動車に搭載した可搬型インバータボックス注3)から、公共施設である「いのちのたび博物館」の10kW蓄電装置へ非常用電力を供給し、燃料電池自動車の緊急時における移動可能な発電設備としての実用性に加え、災害時に避難所となる学校などの公共施設への効果検証を行っています。(図6)
水素を燃料とする燃料電池自動車(FCV)による発電を、家屋や公共施設で利用する「FCV2H(Vehicle to Home)」、「クルマから家へ」のシステムは確立されており、災害により停電が発生したとしても、燃料電池自動車により発電した電気を避難所に供給できます。「FCV2L(Vehicle to Load)」はクルマから電気機器への供給を表します。
従来からの電気やガスに加えて、水素を供給できるインフラを整備することにより、まちのエネルギーセキュリティ注4)が向上します。こうした街なかでの水素供給・利活用モデルは、今後、簡易ガス供給事業、水素ステーション注5)周辺での波及も期待されています。水素を加えた多様なエネルギー源を備えることは、まちの防災力強化となり、住民にとって安心な暮らしにつながるでしょう。今後の課題としては、低コスト化を図り、実証実験から実用化レベルへ移行させていくことかと思います。
図6 水素を活用した非常用電気供給の実証実験 出典:北九州市
- 注2)
- 純水素型燃料電池とは:水素だけで発電する燃料電池
- 注3)
- インバーターとは:直流電力を交流電力に変換する装置
- 注4)
- エネルギーセキュリティとは:エネルギー安全保障。エネルギーの安定供給
- 注5)
- 水素ステーションとは:燃料電池車に水素を供給するための施設