先進エネルギー自治体(5)
奈良県三郷町 給食センターをコージェネで災害拠点に
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
熊本県と大分県を襲った大地震により、亡くなられた方、怪我をされた方、また住宅の倒壊などで避難されている方の被災の状況に、胸が締め付けられる思いです。地震などの自然災害はいつ、どこで起きるかわかりません。災害対策を強化した“強靱化(レジリエンス)”なまちづくりの重要性を改めて痛感します。「先進エネルギー自治体サミット2016」のファイナリストのひとつ、奈良県三郷町では、学校給食センターにコージェネレーション(熱電併給)システムを導入し、非常時の炊き出しができる災害拠点として整備しました。
川沿いの町が取り組む大地震や水害への備え
三郷町は、役場など多くの公共施設が大和川沿いにあります。大地震や集中豪雨による大和川の決壊などの災害に備え、非常時でも行政機能を維持し、住民の安全を守るため、町全体の防災力の向上を図りました。2015年9月、老朽化した学校給食センターを、防災機能を強化して建て替えたのです。(総事業費12億円/鉄骨平屋建て(一部2階)延べ約2200m2)
給食センターは、普段は町立中学校1校と小学校2校、幼稚園の4校園に約2000食の給食を提供していますが、非常時は炊き出しなどの活動拠点に変わります。防災・減災注1)対策の核になるのが、停電対応型ガスコージェネレーション(熱電併給)システムと太陽光発電と蓄電池の設置です。これらの自立・分散型エネルギーの導入により、停電時も自前で電力を作り出します。
コージェネレーション(熱電併給)とは
「コージェネレーション」は、天然ガス、石油、LPガス等を燃料として、エンジン、タービン、燃料電池等の方式により発電し、その際に生じる廃熱も同時に回収するシステムのこと。回収した廃熱は、蒸気や温水として、冷暖房や給湯などに利用できます。(図1) コージェネは、エネルギーを運ぶ際のロスがほとんどないため、熱(温熱や冷熱)と電気を無駄なく利用できれば、燃料が本来持っているエネルギーの約75~80%と高い総合エネルギー効率注2)なのが特徴です。
コージェネは、初期投資の費用負担の大きさや、稼働率が低い場合、光熱費の回収効果があまり期待できないなどの理由で普及ペースは遅々としていましたが、東日本大震災を契機とする電力不足で、エネルギーセキュリティ上、積極的に導入を進める企業や自治体が急増しています。コージェネ向けの中圧ガス導管は、大震災で道路や橋が倒壊してもガス漏れしなかった耐震性も注目されました。災害時でも供給可能な中圧ガスを利用することで、エネルギーを安定供給できる価値が再確認されたのです。
給食センターの災害力強化のポイント
森宏範町長は、東日本大震災に見舞われた宮城県気仙沼市の避難所を視察した際、被災者の声から「水と食料の確保」と「停電対策」の重要性を確認したと言います。(1)〜(6)は、給食センターにおいて強化された災害対策のポイントです。
(1)停電対応型ガスコージェネレーションの設置による災害時動力の確保
(2)太陽光パネル・リチウムイオン蓄電池の設置による災害時電力の確保
(3)備蓄倉庫の整備
(4)耐震性貯水槽の整備による災害時飲料水の確保
(5)福祉避難所・一般避難所の整備
(6)防災行政無線の整備による第二次災害対策本部機能の確保
停電対応型ガスコージェネレーション、太陽光発電パネルと蓄電池などの自立分散型エネルギーにより停電時の電力を確保。水や食料など物資の備蓄倉庫を設置し、大地震時の想定避難者6350人が3日間必要な水を確保する耐震性貯水槽(約60トン)を整備しました。防災行政無線注3)を設備し、給食センターの休憩室や研修室は避難所として使い、町役場が被災した際には、給食センターが災害対策本部になります。これらの設備の配置(1階と2階)と各設備の機能については、図2と図3のA〜H(ピンク色の囲み)をご参照ください。
非常時の「水と食料の確保」と「停電対策」の備えがあれば、調理設備が整った給食センターは、炊き出しの拠点として、避難した住民に温かな食事を提供できる機能を発揮してくれそうです。建て替えのタイミングで、町の施設の特性をうまく活用した“レジリエンスなまちづくり”の好事例と言えます。
- 注1)
- 減災とは:あらかじめ被害の発生を想定し、被害を低減させていく取り組みのこと
- 注2)
- 総合エネルギー効率とは:燃料が実際に使用されて生じるエネルギー量と、実際に利用できるエネルギー量が比率で表された数値のこと
- 注3)
- 防災行政無線とは:災害時、都道府県や市区町村が住民に情報を提供するための無線通信システム