先進エネルギー自治体(4)
大阪府堺市 ZEHの街づくりと下水再生水の活用
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
商業施設での下水再生水の活用と防災機能の強化
もうひとつ堺市のユニークな取組は、未利用エネルギー資源の「下水再生水」を活用した高度複合熱利用事業です。下水再生水とは、下水処理場に集まった水を、農業用水や事業所の雑用水等に利用するため再生させた水のこと。地球温暖化により世界的に渇水リスクの増大が懸念される中、下水処理水や雨水の再生利用を積極的に進め、水環境を守る必要性が高まっています。水をうまく循環させて使うことは、持続可能な未来につなげることになります。
鉄砲町地区で新たに開発された大型商業施設「イオンモール堺鉄砲町」を、省エネ・防災の中核拠点と位置づけ、堺市は三宝下水処理場から下水再生水の導管敷設を行い、1つの施設内で下水再生水を「熱利用」と「水源」にカスケード(多段階)利用する全国初の取組を進めています。(平成29年春から事業開始予定)
「熱利用」では、イオンモール内で給湯熱源として利用し、水温が下がった後も冷房の空調熱源として2段階利用します。また、熱利用後の下水再生水は、施設内を流れる小川や散水など、施設内で中水注2)として再利用し、さらに内川緑地内のせせらぎ水路に送水し、水源として活用する計画です。(図4)日量約1,500立方メートルの下水再生水の高度複合熱利用事業により、年間7.2%の省エネ効果と14トンのCO2削減効果が見込まれています。
この他、商業施設を災害時の一時避難所として最大限活用するため、「水」と「電源」を確保する体制を整備しました。耐震受水槽や津波災害を想定した「高架水槽」の整備、電力の需給ひっ迫への対応に備えた「長時間対応の非常用発電機」、「防災電源切替可能な太陽光発電システム」の整備など、多様な対策を実施しています。(図5) 既存の商業施設を利用し、下水再生水の活用と災害対策を同時に強化する取組は、「水環境の管理」と「防災性の向上」を両立し、レジリエント都市の先進モデルとして、他地域への波及も期待されます。
- 注2)
- 中水とは:ビルや大規模施設の排水を再生処理してトイレ洗浄水、散水用水などの雑用水として利用すること。上水と下水の中間に位置することから中水といわれる。