鉄道とシカの衝突件数は年間5000件!
問題解決の製品開発秘話
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
「さびたレールやパイプでも実験しましたが、鉄が酸化した状態では誘引効果はありませんでした。パウダー状でイオン化しやすい鉄粉であれば摂取できるようです」(見城氏)
ユクルの設置方法は用途によります。例えば、シカが線路に向かう通り道の途中にユクルを置けば、シカを足止めしてそれ以上、線路に近付かないようにすることができます。従来のシカ用ワナは、そばにエサを置いて、頻繁に取り替えに行く必要がありましたが、ユクルは最大で半年間放置でき、手間がかからないのもメリットです。ユクルと各種ワナを組み合わせれば、季節を問わずシカの生体捕獲を行え、地域環境全体のトラブルを減らすことが期待されます。
シカ対策システム「ユクリッド」
さらに、シカが“入りにくく出やすい”形状の侵入抑止柵「ユカエル」を開発。ユクルとセットでシカ対策システム「ユクリッド」をつくりました。これも現地調査から開発したもので、従来とは逆の発想からの開発です。
これまでは、シカが侵入しないように背の高い柵を置くのが一般的でした。「ところが映像を観察すると、シカは柵の切れ目などからそっと入り、柵から出る時はピョンと飛び越えて逃げます。列車に追い立てられると脱出しようとしても柵が高いと飛び越えられず、衝突が起きやすくなります。従来品の半分の高さで、鉄道特有の盛り土の斜面に垂直に立ててやることで、入りにくくて脱出しやすい構造にしました」(梶村氏)
「製品化までの約3 年、会社が自由に取り組ませてくれたことに感謝します。シカに詳しい人材を増やして、もっとお客様や社会に貢献したい」「ゼロからのものづくりができて、うれしい」と話す両氏が、企画、開発の基礎から応用、営業の領域まで関わっていることも日本の大企業では異例のことでしょう。両氏の笑顔から「やるぞ!」という気概が伝わってきます。
鉄道会社からの問い合わせに加え、獣害に悩む自治体や森林組合、猟友会、最近は海外からも問い合わせが来ています。自分の目で確かめ、世の中にないものを生み出した創造力に拍手を送りたいです。