家庭用・業務用蓄電池の効用
山藤 泰
YSエネルギー・リサーチ 代表
昨年の5月、米国シリコンバレーのテスラモータース社が定置用蓄電池を驚異的な低価格でその夏頃から販売すると発表し、その数字を見て驚嘆したことを覚えている。家庭用である7kWh(1キロワットの電力消費で7時間ほど使える)容量のもので3千ドル。その時に調べた国産の同容量のものが130万円ほどだったから、テスラが同社の販売する電気自動車との相乗効果を狙ったものとはいえ、蓄電池の価格低下を強く印象づけられた。その後国産品の価格も下がってはいるが、まだテスラの示した価格のものは見当たらない。とはいえ、設置のためのコストや制御方式の差があるから数字だけの単純な比較は避けるべきかもしれないが、世界的に見ても蓄電池価格の急速な低下が現在も続いているのは確かである。
(テスラモータース社の定置用蓄電池については、
https://www.teslamotors.com/jp/powerwall を参照)
家庭用・業務用定置用蓄電池は、電気メーターの後にある屋内電気系統に接続されるものだ。これより規模の大きい蓄電池は、送配電系統や発電所に設置され、送配電の安定化や系統容量の増強という役割を担っている。メーターの後に設置される蓄電池は小容量であるが、それが集積されて一元的に制御されるとすれば、単に取り付け先の電気料金低減や停電対応、太陽光発電との組み合わせ、といったものだけでなく、電力供給全体でみた需要ピークの抑制など電力供給を行う事業者から見ても貴重な機能を果たすことができる。さらには、この4月から日本の電力市場が全面自由化され、多数の新電力事業者が参入するようになると、それぞれが何らかの形で供給に必要な電源を確保しなければならないが、その電源の一つとして、家庭用・業務用規模の蓄電池を新電力事業者が多数の需要先に自ら設置して一体制御することによって、供給すべき電力と需要を一致させようとするケースが出てくるのではなかろうか。この場合、個々の蓄電池は全体の一部として電力事業者が必要に応じて通信制御するようになり、それを許容する消費者が電力事業者の依頼を受け入れて契約し、庭先や工場敷地に設置する形がとられるだろう。
この場合、蓄電池設置コストを消費者がどれほど負担するかは、事業者が制御するとき以外は自分の目的に合うように蓄電池をどれほど利用できるかの条件によって変わるだろう。販売する電力の中に再生可能エネルギーの比率を高めようとする事業者の場合など、消費者とメリットを分け合う形で設置コストを抑制することができれば、多数の蓄電池に再生可能エネルギーからの電気を選択して蓄電し、異なった場所に設置されている蓄電池を一体的に連動させて大容量の再生可能電源とし、環境にやさしい電気を安く供給することも可能になるのではなかろうか。さらには、太陽光発電からの電気を制御して一斉に蓄電・放電すれば、系統を安定化する機能を同時に果たすこととなり、送配電事業者に価値あるサービスとして売ることも可能になるだろう。このような利用の仕方が普及するためには、蓄電池からの電気を系統に逆送できることが望ましいが、それが許されなくても工夫次第でこの方式が普及する可能性はあると考えている。ただ、これが事業として推進できるほど蓄電池価格が下がるのがいつ頃になるかはっきり見通せないのが課題ではあるが、荒唐無稽な話ではないはずだ。