「地中熱」の可能性を探る
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
東京スカイツリータウンでは、建物の基礎になる杭に複数のチューブを取り付ける「基礎杭方式」と、120mのボアホール(地中井)を21本掘削した「ボアホール方式」の2方式が採用されました。チューブの中に水を循環させ、地中と熱交換を行うことで、効率的な冷暖房を実現しました。東京スカイツリータウンでは、地中熱利用などにより、一次エネルギーの年間消費量を44%削減し、二酸化炭素(CO2)の排出量を50%減らすなど、大きな効果を発揮しています。
鉄道初の地中熱利用、小田急電鉄
小田急電鉄では、駅空調の一部に、鉄道トンネルとしては日本初の地中熱ヒートポンプシステムが採用されています。小田急小田原線の代々木上駅~梅ヶ丘駅間(約2.2㎞)では、踏切での慢性的な交通渋滞の解消などを目的に、東京都が事業主体となり、鉄道を立体化して踏切を除去する連続立体交差事業と、鉄道の輸送サービスの改善を図るため、小田急電鉄が事業主体である複々線化事業を一体的に進めています。複々線とは、線路を増やして上下線を各2本ずつの4本の線路にすることです。この工事は2004年9月から着手し、2013年3月に在来線が地下化されました。
鉄道の地下化工事を利用して地中熱を導入したのは、世田谷代田駅と東北沢駅です。ホーム待合室や改札口付近など駅内の空調の一部として地中熱を利用しています。
地中熱ヒートポンプシステムを導入したのは、周辺への環境配慮が理由のひとつです。世田谷代田駅と東北沢駅の周辺は閑静な住宅地なため、空気熱ヒートポンプ(エアコン)だと、駅舎の外に室外機を置く必要があり、発生する排熱や騒音など周辺への影響が懸念されたからです。また、地下化の工期を遅らせることができない事情もありました。
そこで採用したのが、構築中のトンネル構造物の下床面に、地中熱交換器として利用するチューブを「水平埋設方式」で設置する方法でした。140mの区間をブロックに分けて地下トンネル掘削工事を行い、ブロックごとに熱交換機を敷設することで、掘削工事を止めることなくスムーズに作業を進めることができました。
地中熱ヒートポンプシステムは、通常の空調に比べて稼働時間を長くすることが有益です。イニシャルコストが高いという課題も、ランニングコストが安いため、ランニング時間が長い使い方が理想的といえます。世田谷代田駅と東北沢駅では、空気熱源ヒートポンプと比べて、CO2排出量とランニングコストを年間約30%削減できる見込みです。
今回、小田急電鉄の水平方式の実用化により、地中に掘削するトンネルや地下街などの地下構造物の下床面や壁面に、地中熱交換器を設置して地中の熱を熱源として利用することが実用上有効だと確認されました。これがトンネル熱交換システムの模範となり、今後、多くの地下工事現場で利用される可能性が期待されます。