データ分析に基づいた議論が重要

書評:金子 祥三・ 前田 正史/東京大学生産技術研究所エネルギー工学連携研究センター 著「世界の中の日本 これからを生き抜くエネルギー戦略 」


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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電気新聞からの転載:2015年7月10日付)

 エネルギー戦略とはすなわち、国の生き残りを賭けた作戦なのである。化石燃料資源に恵まれず、本来エネルギーが無いのが当たり前の我が国は、その手厚いエネルギー政策が功を奏して、エネルギーがあるのが当たり前になった。しかしその状態に慣れた国民は、エネルギー戦略を、将来の夢や希望や理想の実現に向けた指針として捉えるようになったのではないか。最近「エネルギー戦略」という言葉が使われる場面の多くでそう感じる。

 エネルギーは基盤インフラであり、社会のあり方を変えうる。現状にとらわれず長期的なビジョンを持つことは必要だが、「できたらいいな」で語ることは許されない。期待を盛り込む度合いが極めて難しいのがエネルギー戦略であろう。

 本書は東京大学生産技術研究所が昨年秋に開催したシンポジウムでの講演をまとめたものであり、固いタイトルとは裏腹に、語り口調で書かれており非常に読みやすい。

 海外事例から正確に学ぶには、その国の政府の「大本営発表」を鵜呑みにせず、実際のデータを分析し自ら検証する必要がある。日本では手本として報じられることの多いドイツを、金子祥三東京大学生産技術研究所特任教授は、現地調査とデータ分析に基づき「ドイツの惨状」と表現している。また、上野貴弘電力中央研究所主任研究員は、オバマ政権の温暖化政策の足元がおぼつかない実態について、大統領選挙や規制に対する訴訟も踏まえ分析を示している。

 また、日本のメーカーが持つ高効率火力発電技術も紹介されている。日本の排出削減目標をいかに高くするかという、閉じた議論に終始することが多いが、日本は米国、ドイツなどと並んで、世界での排出削減に技術力で貢献しうる稀有な国だ。自国の排出削減を疎かにして良いわけではないが、それに汲々としてその技術の普及や開発を損なうようなことになっては本末転倒であることが改めて実感される。

 エネルギーはデータに基づき論じるべきで、情緒的・観念的・あるいは宗教的に語ってはならないという当たり前のことを改めて思い出させてくれる良書である。

※ 一般社団法人日本電気協会に無断で転載することを禁ず

20150715_book
「世界の中の日本 これからを生き抜くエネルギー戦略」 
著者:金子 祥三・前田 正史/東京大学生産技術研究所エネルギー工学連携研究センター(出版社: DNPアートコミュニケーションズ )
ISBN-10: 4887520417
ISBN-13: 978-4887520417

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