米国の再生可能エネルギー政策(6)~風力発電の新時代3
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
(前回は、「米国の再生可能エネルギー政策(5)~風力発電の新時代2「洋上風力」」をご覧ください)
風力はクリーンパワープランで最も経済性が高い
米環境保護局(EPA: Environmental Protection Agency)は2014年6月、既設発電所のCO2排出量を2030年までに2005年比で30%(7億3,000万トン)削減することを目標とした排出規制案「クリーンパワープラン」を発表したが、施策の柱となっているのは、「石炭火力への厳しい規制」、「天然ガスへのシフト」、「再生可能エネルギーの導入拡大」、「エネルギーの効率性向上」である。今年に入り、米情報局(EIA: Energy Information Administration)は、EPAが提示する「クリーンパワープラン」における規制を複数のシナリオで分析した結果、もっとも経済性が高く温室効果ガス排出削減に効果を発揮するのは、「風力発電」であると発表した。
米国では再生可能エネルギーの中でも風力発電は競争力がある低コストの電源である。(図1)EIAの分析によると、風力はクリーンパワープランを完全遂行するためにもっとも経済性が高い設備であり、各州の行政担当者および系統事業者は風力資源の最大限の活用を図るべきだとしている。
天然ガス火力は石炭火力に比べて温室効果ガス排出量は半分だが、風力発電は自然の風がエネルギー源であることから燃料コストはゼロであり、化石燃料のようにコストが変動する懸念もなく安定している。このことがクリーンコールプランにおいて、経済性がもっとも高い選択肢と評価されたポイントとなっている。EIAの分析では、クリーンパワープランにおいて「天然ガスへのシフト」を一番手の施策に位置付けた場合、天然ガスの価格は値上がりすると予測する一方、風力発電に最も重きを置いた場合、天然ガス価格は下がると予測している。電気料金の低下だけでなく、様々な産業や家庭など社会活動全般のコスト負担を低減することにつながるとしている。図2はEIAが示した経済性がもっとも高いクリーンパワープランの標準モデルだが、風力発電が大きな割合を占めていることに驚く。技術的進展とコスト低下にともない、風力発電が温室効果削減においてもっとも経済性が高く効果がある選択肢として期待が大きいことがわかる。DOEのアーネスト・モニク長官は先日、公の場で「我々の気候変動対策への挑戦の中心的役割は、風力発電である。我々はこの方向で確実に目標を達成するつもりである」と話している。
最近では世界資源研究所(WRI: World Resources Institute)も、温暖化対策シナリオにおける様々な選択肢の中でも、近年の再生可能エネルギーのコスト低下により、再生可能エネルギーがもっとも温室効果ガス削減効果が期待できると発表している。WRIのエネルギーミックスシナリオにおいては、米国のすべての発電電力量のうち、再生可能エネルギーは2030年に27~28%に、2040年には36~38%を占めると予測している。