再生可能エネルギー大量導入時代の電力需給を考える(2)
火力プラントの新たな役割と価値
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
(前回は、「再生可能エネルギー大量導入時代の電力需給を考える(1)」をご覧ください)
今年4月9日に東京大学生産技術研究所主催CEEシンポジウム「再生可能エネルギー時代の電力システムと火力発電を考える」で、一般社団法人・火力原子力発電技術協会専務理事の船橋信之氏の講演を聴講しました。「再エネ導入拡大を支えていくのは火力」という、“目からうろこ“でのお話で、再エネ時代の火力の新たな意義や可能性について考えるきっかけをいただきました。
月刊「エネコ〜地球環境とエネルギー」で連載中の「環境・エネルギーダイアリー」7月号は、船橋氏にインタビューさせていただき、「再生可能エネルギー時代の火力の新たな価値と役割、需給調整のマルチプレーヤー、ライバルは蓄電池」を執筆しています。(手に取って、ご一読いただけるとうれしいです!)船橋氏の講演は大変有意義な内容でしたので、エネコでは書いていないことなど、補足として情報提供したいと思います。
これまで日本では、火力や水力の系統電源の需給調整力で電力系統を安定的に運用してきました。しかし、太陽光や風力の導入が増加し、その出力変動幅が大きくなると、これまでにない電力システム運用への脅威になり、電力システムにおいて不可欠な瞬時から年間など様々な時間レンジでの需給調整が困難になってきています。これがまさに今、日本が直面している課題です。(図1)
出力変動が大きい太陽光や風力を受け入れて需給バランスされるためには、系統が高い柔軟性を持つことが必要で、そのためには常に十分な予備力が必要になります。その際、予備力として「調整予備力」と「スピード(変化速度)」が重要になってきます。
予備力量と変化速度を確保するための対策として、①系統電源(火力と水力)のさらなる活用、②再エネの調整力、③需要の能動化(デマンドレスポンス)、④蓄電池などの新しいエネルギー貯蔵技術、⑤送電網の拡充と連系線の活用が挙げられます。図2が示すように、火力は、気象条件に左右されず、あらゆる時間レンジでの需給調整が可能です。船橋氏は、「日本の事業用火力プラントは、効率を下げてでも需給調整機能に対応しており、再エネの大量導入を支えている」と解説しました。火力はCO2排出問題のほか、設備費は安価であっても燃料費が総費用の大きな割合を占め、大半を輸入に依存していることから安定供給や経済性などの課題はありますが、系統に柔軟性を持たせる利点は評価すべきでしょう。
火力は、急減な需要変動に対応でき、立ち上げ時間が短く、出力変化速度(kW/分)が速く、最低負荷の小さな電源(下げ代が大きい)です。また、低出力運転時でも効率が高く、十分なガバナ・フリー(発電機出力や周波数の増減二応じた回転数変化を検出し制御弁を開閉し、回転数を一定に制御させるもの)容量が確保でき、多様な燃料種への対応が可能です。
火力の柔軟性向上に向けた取り組み
今後、太陽光や風力など再エネ導入拡大に対応するためには、火力のさらなる需給調整機能の向上が求められています。すでにプラントメーカーは、火力の需給調整機能の向上に向けた技術開発に着手していますが、以下は、船橋氏が提案する再生可能エネルギー拡大への火力を中心とした対策メニューです。
電力系統の安定性は、火力や水力などの周波数制御機能や自己制御性により、その根幹が支えられています。再エネ時代の系統運用においては、太陽光や風力などの出力変動リスクに備えてバックアップ電源を確保した運用になり、火力は低出力で運転する機会が多くなる見込みです。一方、再エネの出力変動を吸収するために、火力に求められる必要な調整力は増加します。調整力向上を図る技術開発には相応の費用はかかると思いますが、その特長を活かし、“再エネ時代”の電力の安定供給に貢献する“新たな役割と価値”を期待したいです。