ドイツの電力事情⑮ 送電線の押し付け合い
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
バイエルン州のアイグナー経済相は、2つも新たな送電線が通るのは全国でバイエルン州だけであり、その一つのSued Linkについてはルートを西側に変更するよう求め、ゼーホーファー首相も同調している。彼らバイエルン州高官の主張は、送電線建設計画ルートの地域住民からの強い反対の声に後押しされていたものだ注8)。しかし、ヘッセン州のボフィエー首相は、バイエルン州が何を言おうが送電線のルート変更は認められるものではないと反発し、バーデン・ビュルテンベルク州のシュミット財務経済相はその要求を「バイエルンのエゴイズム」と批判したと報道されている注9)。再エネを拡大し、脱原子力・脱化石燃料を図るEnergiewendeを進めるエコの国で顕になったエゴである。
連邦経済省のガブリエル大臣が5月24日、ZDFテレビのインタビューに答え、バイエルン州は既存のルートを受け入れるべきであり、隣接州に押し付けるべきではないこと、また、バイエルン州の負担を減らすためにも地中埋設の区間を増やすなどの対策を施す必要があり、地中埋設の技術も進歩しているとコメントした注10)。
確かに送電線を地中に埋設すれば景観悪化は防げるが、それはコストが莫大に膨らむ。日本の経済産業省が行った、再生可能エネルギー導入拡大のための広域連系インフラの強化等に関する調査注11)では、海外事例も多く紹介されているが、ドイツの送電事業者4社は、埋設ケーブルにした場合のコストを、50Hzは架空線の約10倍、Tennetは架空線の2倍から4から5倍、BNetzAは架空線の6倍になると見積もっている。また、埋設ケーブルによる電磁波の影響が明らかになっておらず、地中埋設は現実的ではないという指摘もなされている。
2009年制定の高圧送電線建設迅速化法(EnLAG:Energieleitungsausbaugesetz)が定める優先計画ルート約1,834kmのうち2013年末の進捗は約2割の約322kmであるとされる。2022年の脱原発を目指すのであれば、送電線建設に残されている時間はそう長くない。