「クリーンパワープラン」~石炭火力に厳しい新規制(2)


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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 米国では、シェール革命により安価で豊富な天然ガス資源が手に入り、また既存の充実した天然ガス・パイプラインがあることから、短期的に国産天然ガスの調達量を増やし、既存の天然ガス火力を炊き増しすることで、燃料転換が進んできた。

 しかし、ブルッキングス研究所(Brookings Institution)・上席研究員のチャールズ・エビンジャー氏は、「2020年以降、米国のシェールガスの黄金時代が続いているかは疑問だ」と話し、「中国やアフリカでも今は水の確保などの問題でシェールガスが掘削できない状況だが、将来技術的に可能になるかもしれない。米国で石炭火力から天然ガス火力発電シフトが完全にできると私は楽観的な見方はしていない。むしろ悲観的な見方をしている。カナダがいい例だが、シェールガスによる多くのLNG輸出ターミナルの建設プロジェクトが進められているが、政治的な対立が多く、まわりは驚くかもしれないが、この先10年で2、3つのLNG輸出ターミナルができればいい方だと思っている。世界的にみると石炭市場は伸びており、電力市場において天然ガスと競争力を持っているのは石炭だ。安価で安定的にエネルギー供給ができる石炭の可能性を否定することはない」として、オバマ政権の一連の石炭火力への規制強化に疑問を投げかける。

図2

出典:EIA 総延長50万㎞に及ぶ米国の天然ガス・パイプラインの輸送網(2009年時点)

 また、電源割合については地域性があり、西部のマウンテン(アリゾナ、コロラド、アイダホ、モンタナ、ネバダ、ニューメキシコ、ユタ、ワイオミング)、中西部のウエストノースセントラル(アイオワ、カンザス、ミネソタ、ミズーリ、ネブラスカ、ノースダコタ、サウスダコタ)やイーストノースセントラル(イリノイ、インディアナ、ミシガン、オハイオ、ウィスコンシン)では石炭火力が依然50%超を占めている。石炭火力発電所が多い州で天然ガスなど代替燃料へシフトする場合、電気料金が上がる可能性は高い。石炭産業で成り立っている地域での反発は容易に予想される。共和党や産業界からも反対の声が根強い新規制案がどう決着するのか。今年夏頃に最終的に規制化される見通しだが、2016年に任期を終えるオバマ大統領が打ち出したクリーンパワープランは、次期政権まで多くの事案がもつれ込むことを見越した長期戦になりそうである。

謝意:本稿の執筆にあたり、東京電力ワシントン事務所副所長の西村郁夫氏に資料提供などご協力いただきました。

次回は、「米国のCCS実証事業」についてです。

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