失敗するドイツのエネルギー政策-エネルギー・温暖化関連報道の虚実(14)
澤 昭裕
国際環境経済研究所前所長
ほぼ3ヶ月ぶりの「エネルギー・温暖化関連報道の虚実」の更新です。その間、BSフジの番組(「再生可能エネルギーの光と影—澤昭裕が見たドイツとスペインの真実」)の制作で、ドイツとスペイン等に再生可能エネルギーの現場を見て、政策担当者などに取材してきました。3月28日に放送されたこの番組は、制作スタッフの方々が極めて優秀で、非常にわかりやすいものに仕上がりました。ありがたいことに、見た方々からも好評をいただきました。
つい最近、2030年のエネルギーミックス(電源構成)について政府案が示され、再エネは22%−24%という目標になりましたが、その議論の過程でも、欧州での再エネ政策の失敗、特に電気料金を急上昇させることになった固定価格買取制度(FIT)の問題点などが明らかになるにつれて、日本でも再エネの一辺倒な導入についての反省が見られるようになりました。
中でもドイツは、日本の再エネ推進派の人々にとっては「聖地」ともいうべき国なのですが、実際には問題が山積しています。当国際環境経済研究所の竹内純子主席研究員は自らのブログや著書で、折に触れてドイツの実情を伝えてきていますし、そのほかにも石川和男氏や川口マーン恵美氏なども多くの論考を発表しています。
これら一連の著作物によって、ドイツの実情も日本にようやく伝えられ始めてはいますが、外国メディアでもドイツのエネルギー政策の苦悩を扱っている記事が増えてきました。ここ最近では、ドイツが脱原発路線を取った裏返しとして、石炭や褐炭火力発電に回帰している(せざるを得ない)という趣旨の記事が立て続けにありました。両方併せれば、総発電量の40%以上を占めています。(http://www.de-info.net/kiso/atomdata01.html)
記事としては、
TIMEの「Germany’s Nuclear Cutback Is Darkening European Skies」
Bloombergの「Germany Says Credibility on Line in Lignite Emissions Showdown」
要は、脱原発を決めたはいいものの、再エネ導入も同時に進めたことによって電気料金が上昇、それを抑えるためには安い石炭や褐炭火力に頼らざるを得なくなっているという趣旨です。米国ではシェールガスに押されて石炭が余る一方、ドイツではロシアへのガス依存を高めたくないという安全保障上の理由もあって、米国産の石炭の輸入も増えているようです。
しかしながら、一方でドイツ政府はこれまでCO2削減を追加的に2200万トン行うことを約束してきたこともあり、石炭・褐炭発電を抑え込もうとしています。結局、不安定でコストがかさむ再エネだけしか電源オプションがなくなるかもしれず、一体政府は何を考えているんだと産業界や電力業界からの批判が強まってきているようです。
そのうえ、基本的に自由化している市場で、再エネだけはこれまで固定価格買取制度や優先給電ルールによって、ある意味「市場の枠外」から導入されてきたこともあって、市場競争を強いられている火力発電(特に燃料費の高い天然ガス火力)の採算性がとれず、どんどん撤退しているため、中長期的な供給力不足が心配されています。
そうした懸念に答えるために、容量メカニズム(動いていなくても、設備をいつでも発電できる状態にしておくことに対する補助)の検討が行われていたのですが、メルケル首相らは、このアイデアは「動かしてもいない設備」に対する補助であって、電力会社に対する不当な優遇だというイメージに対する懸念から、否定的だとの報道があったようです。(http://www.fepc.or.jp/library/kaigai/kaigai_topics/1248370_4115.html)
もしこうした仕組みが用意されなければ、電力会社は原発どころか、火力発電所もどんどん閉鎖していくでしょう。ドイツのエネルギー政策はどこに行くのでしょうか。もしかすると、あと数年すれば、以前にもあったようにもう一度原発をオプションとして考え直すというところに行き着くのかもしれません。