第2話「原子力の平和的利用」
加納 雄大
在ウィーン国際機関日本政府代表部 公使
IAEAの役割:“Atoms for Peace”から“Atoms for Peace and Development”へ
様々な分野での原子力の平和的利用のため、IAEAは発足当初から重要な役割を果たしてきた。
第1話で紹介したように、IAEA事務局では任務に応じて6つの部局があるが、このうち、原子力エネルギー局(NE(nuclear energy)局)、原子力科学応用局(NA(nuclear sciences and applications)局)、技術協力局(TC(technical cooperation)局)の3局はいずれも原子力の平和的利用を担当している。NE局が主として原子力発電分野の国際協力、NA局が非発電分野における原子力技術の応用、TC局が各種技術協力プロジェクトの実施を担当している。また、平和的利用の大前提である安全性の問題は、原子力安全・核セキュリティ局(NS(nuclear safety and security)局)の担当である。
ウィーン近郊の町、サイバースドルフ(Seibersdorf)には、オーストリア政府が提供した土地に米国の支援で建設されたIAEAの研究所が1962年から活動している。害中対策、食糧・環境保護、陸地環境、水管理・穀物栄養、畜産・動物衛生、植物育種・遺伝学、線量測定、原子力科学・計装の8つのラボがあり、各種研究の他、途上国からの人材を受け入れている。このほか、ウィーンのIAEA事務局の地下にアイソトープ・水文学のラボが、モナコに海洋研究所がある。福島第一原発事故後の日本とIAEAの協力の一環として行われている海洋モニタリングには、モナコの研究所の専門家が現地調査に参加している。
原子力技術が様々な分野で活用されている様子は、IAEAが最近作成した下記のビデオでもみる事が出来る。
https://www.iaea.org/newscenter/multimedia/videos/how-atom-benefits-life
最近のIAEAの貢献としては、西アフリカで昨年大流行し、国際社会にとって大きな脅威となったエボラ出血熱への対策があげられる。感染症対処では感染者の早期診断、隔離、治療が欠かせない。これまでIAEAは、リンダーペスト(牛の伝染病)への対処においてFAO(食糧農業機関)と連携し、原子力派生技術を活用した感染牛の早期診断により、撲滅に貢献した実績がある。この経験をもとに、エボラ出血熱感染者を早期に診断する機材の供与と人材トレーニングのためのプロジェクトを昨年から実施してきている。
このようにIAEAは、幅広い開発、環境分野における原子力の平和的利用のため、重要な役割を果たしている。このIAEAの役割について、天野之弥事務局長は、“Atoms for Peace and Development”という新しいコンセプトを提唱している。“Atoms for Peace”という、アイゼンハワー大統領演説以来の標語にDevelopment(開発)を付け加えた方が、IAEAの役割がより良く理解されるとの考えである。
日本の貢献
この原子力の平和的利用において、日本はIAEAを通じた協力を中心に、途上国支援に力を入れてきた。IAEAに拠出する技術協力基金を通じた支援に加え、これを補完する資金枠組みとして、2010年NPT運用検討会議で新たに設置された平和利用イニシアティブ(PUI: Peaceful Uses Initiative)を通じ、様々な支援を行ってきた。
本年に入ってからは、前述のIAEAによるエボラ出血熱対策を支援するため、短期及び中長期の対策とあわせて総額約108万ドルの資金協力を行い、日本人専門家もIAEAのプロジェクトに参加している。