「一国再エネ主義」は不可能だ
澤 昭裕
国際環境経済研究所前所長
(産経新聞「正論」からの転載:2015年3月23日付)
将来の電源構成(エネルギーミックス)の議論において、再生可能エネルギーの導入量は、水力を含めて20%程度にとどめておくべきである。技術的、経済的に看過し難い問題があるからだ。
≪厄介な余剰電力、不安定性≫
その理由の第1は、「一国再エネ主義」は不可能だからだ。特に、風力や太陽光といったお天気まかせの発電設備で生まれる電気は、往々にして需要を上回る余剰電力を発生させる。余剰電力は系統運用を乱す厄介者だ。
ドイツでは、自国内の送電線建設計画が住民の反対などで進捗していないため、北欧や東欧各国に余剰電力を「捨てて」いる。これができるのもドイツが隣国と送電線で連系されているからである。
すでにドイツの国内発電量の4分の1を超える部分が再エネによるものとなっており、これ以上の拡大は難しいということで、ノルウェーとの送電線敷設計画に期待をかけている。しかし、欧州全体の系統運用を司る機関やドイツの隣国の間では、流入する余剰電力に頭を痛めており、ドイツ自国内での処理を促している。
第2に、不安定な再エネを増やすほど、その発電量変動を吸収するための調整電源が必要になってくる。ドイツでは、再エネ発電量が増えるにしたがって、天然ガスや石炭火力の稼働率が落ちて採算性が悪化したため、電力会社が撤退の意向を示し始めている。しかし、本当に撤退されてしまうと、例えば風が吹かないときに風力発電の穴を埋める電源がなくなってしまい、停電の危機が訪れる。
こうした問題を解決するため、ドイツ政府は、大手電力会社に勝手に火力から撤退させないよう法的に規制したり、電源維持で生じる損失を補助金で埋めるといった措置まで取り始めているのだ。
さらに、調整電源で生き残っているのは最も安い褐炭火力だ。しかし、この電源はCO2を大量に出すことから、ドイツでは再エネをこれだけ増やしたにもかかわらず、CO2は増加した年もある。
≪9基の原発が稼働中のドイツ≫
第3に経済的負担の増加だ。ドイツもスペインも固定価格買取制度を導入して再エネを増やしたが、特に太陽光には高すぎる買取価格を設定したために投資が集中し、電気料金は大きく上昇。今や産業界や消費者からもコスト無視の再エネ導入に厳しい批判が寄せられ、両国とも固定価格買取制度を廃止しており、市場での競争に晒す仕組みに変更した。
ドイツは「脱原発」を決めたことばかりが強調されるが、実はまだ9基も原発が稼働中だ。これ以上電気料金が上昇すれば、日米との産業競争力格差が広がることを懸念しているからだ。ドイツ企業が払っている再エネ賦課金は、米国企業が払っている電気料金全額に等しいといわれる。メルケル首相が、訪日時に日本も脱原発に転向するよう働きかけたと報道されたが、こうした自国の産業競争力の低下懸念が背景にあるのだ。
欧州の一国は日本で言えば「県」であり、それを国全体のモデルとするのは非合理的だ。
欧州全体を日本のモデルとすればよい。その意味では再エネ導入をドイツやスペインを例に考えるべきではない。欧州全体での発電量割合は震災前の日本とほとんど同じであり、その構成を見習うべきだ。また、エネルギー政策は各国の経済戦略と密接に関係している。日本も、より経済性向上やコスト最小化を意識すべきだ。
≪廃止すべき固定価格買取制度≫
その観点から次の3つの施策が急がれる。第1に原発再稼働、第2に固定価格買取制度の即刻廃止と再エネの市場統合化だ。特に今の固定価格買取制度のまま再エネ導入を漫然と進めていけば、総費用は80兆円以上にもなる(電力中央研究所試算)とされている。
第3に、固定価格買取制度によってこれまで再エネ事業者に過剰に移転された電力ユーザー(産業、消費者)の富の再移転である。高額の買取価格で想定されていた設備費と実際に調達した設備費の差分は、再エネ事業者の棚ぼた利益であり、この利益に逆賦課金を課して、それを財源に国際競争に晒されている産業界への減免措置を拡大したり、低所得者層への交付金に充てる。
スペインでは、買取価格の低下を遡及適用して国民負担の増加を抑制しようという荒療治を始めているが、それほど再エネにかかる費用の増加は深刻なのである。
また、再エネ導入がもともと「脱原発」ではなくCO2削減を目的としていることから、固定価格買取制度によるCO2削減費用と省エネ強化などで行うCO2削減費用との差分(前者の方が数十倍以上だと考えられる)の量を、地球温暖化対策税収から産業界に対して補助金を出すか、税そのものの減免を行うことも有力な経済負担軽減案だ。
日本は再エネ導入比率が低いから心配に及ばないという主張もある。しかし私は欧州の有識者から頂いた忠告に学びたい。「再エネ導入は時間をかけて、量的制御を厳しくコスト重視で行うべし」