身近になりつつある直流社会
山藤 泰
YSエネルギー・リサーチ 代表
つい最近、シャープと経産省が直流給電のできる住宅1棟の実験で、全て交流で給電する一般の住宅より約15%の省エネ効果を確認したという記事を見て驚いた。直流で電気製品を駆動させる方が、交流よりも効率が高いということは理解していたが、せいぜい10%前後の効率化だろうと思っていたからだ。いま使われている家電機器のほとんど全てが、交流のコンセントを通ってからすぐに交直変換が行われ、内部では直流が使われていているのだが、その変換時の損失が想定以上に大きいことを示唆するデータだろう。これまで電気技術者に尋ねても具体的な数字を教えてくれる人には出会えなかったのだが、いずれ遠からず、いろいろな建物に直流給電が行われるだろうと従来から考えていたのを確信に変えてくれる情報だった。住宅が直流化されれば、燃料電池(エネファーム)も発電された直流をそのまま供給できるから、機器コストも大幅に下がるはずだ。
この実験では、300~400ボルトの直流が使用されたようだが、国際的な動きは低圧40ボルト程度、高圧300ボルト前後の給電電圧が標準として想定されており、国際基準の設定もほぼできていると聞いている。直流はスイッチを切るのが難しいし、感電した時の危険度が交流より高いから普及させるのは難しいとこれまで言われてきたのだが、安全に直流回路を入れたり切ったりするスイッチも開発済みという情報も入手している。ただコンセントの形状を現行の交流用のコンセントと混用できないようにするなどの必要はあるから、建物内で直流を安全に利用できる安全規準の設定や標準化が行われなければならない。また、直接直流を使える電気機器が商品化されなければ、この実験の意味はなくなってしまう。直流家電機器を開発させる政策的な施策が不可欠だろう。
大量の電力を消費するデータセンターでは、直流給電で大きく効率を上げる方式が世界で進展しており、日本でも幾つかの事例がある。次に直流化すべきなのは、病院、ホテル、商用ビルといった大型建物だと思っていたら、CEC(カリフォルニア・エネルギー・コミッション)の補助金がBosch社に認められ、アメリカン・ホンダモーターのカリフォルニアにある部品配送センターで、直流ベースのマイクログリッド実証試験が実施されることが決まったという情報がつい最近入ってきた。太陽光発電と蓄電池を組み込んで、モーターの駆動やベンチレーション、LED照明向けに直流を供給し、全体をBosch社が開発した方式でマイクログリッド化することによって、商用ビルのネットゼロができることを示そうとしている。先を越されたという感じがしないでもない。
大型ビルの場合、配電線の長さだけをとっても住宅とは比べものにならないほど大きいから、直流給電を行えば、事務機器、コンピュータ、照明、空調、といった需要端への電力供給の損失だけでも交流よりはるかに少なくなる。各種の医療機器があって、24時間空調をしている病院や介護施設などを直流化すれば、エネルギー効率は極めて高くなるはずだ。当然のことながら、各電気機器は直流で駆動するものでなければならないが、その切り替えは、家電機器などに比べれば数は少ないからそれほど難しい話ではなかろう。まず建物本体の断熱性を高め、再生可能エネルギーを組み込んだ上で、直流で設備を稼動させれば、その相乗効果は大きいはずだ。
エネルギー効率化施策の重要項目として、建物の直流化に向けたロードマップが示される段階にあると考えており、具体的なイメージを早く作成してほしいと願っている。