貿易赤字の続くなかでの原油価格の急落(その2)

資源量に制約される原油価格は、中長期的には確実に上昇する


東京工業大学名誉教授

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原油価格の急落は日本の貿易赤字の解消に余り貢献しない

 3.11の福島原発事故以来、原発電力代替の化石燃料の輸入金額の増加が、4年連続の貿易赤字をもたらしているから、2012年度の時点で、輸入金額のなかの17.4 %を占めるようになった原油の輸入金額の下落が、この貿易赤字の解消につながれば、日本経済にとって大きな福音になはずである。

 2012年度で114.19ドル/バレルまで上がっていた原油の輸入CIF価格が、昨年(2014年)の暮れには、半値以下まで急落したので、2015年度の値を45 ドル/バレルとする。すなわち、原油価格が、2011 年度の値から39.4 % ( = 45 /114.19 ) 下落するとする。この原油価格の下落による原油輸入金額の減少は、原油の輸入CIF価格(円建て)および原油輸入量に2012年度の値(文献2-2 から)を用いて計算すると

式1

となる。

 しかし、一方で、アベノミクスによる円安が今後も継続するとして、輸入品価格が、2012年度に対して25 % (1 ドル92円が115円になったとして)上昇するから、2012 年度の輸入金額72.12 兆円からの輸入金額の増加は、

式2

となる。

 したがって、2015年の貿易赤字は 12.21 ( = 18.0 – 7.59 ) 兆円となり、円安による輸出の伸びが2012年の輸出金額 63.94 兆円から19.1 % ( = 12.21 / 63.94 ) 増加しない限り、貿易赤字は、解消されないことになる。
 以上、種々の仮定を含んだ概算であるが、今回の原油価格の下落が、現在、日本経済にとっての脅威として続いている貿易赤字の解消に、期待したような効果が得られないことが予想される。

<引用文献>

2-1.
水野和夫、川島博之 編著;世界史の中の資本主義、エネルギー、食料、国家はどうなるか、東洋経済新報社、2013 年、
2-2.
日本エネルギー経済研究所 計量分析ユニット編:エネルギー・経済統計要覧、省エネルギーセンター、2014年

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