第1話「原子力外交の都、ウィーン」


在ウィーン国際機関日本政府代表部 公使

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IAEA の概要、役割

 発足から間もなく60 年を迎えるIAEA は、現在加盟国は162ヶ国にのぼる(2014 年12 月現在)。
 IAEA の主要組織としては、「総会」、「理事会」、「事務局」の3つがある。国連など、他の国際機関に比して理事会の権能が強いのが特色である。
 「総会(General Conference)」は、全加盟国で構成される意思決定機関である。新規加盟国の承認や、理事会による事務局長の任命についての承認などについて決定権限をもつ。通常年1 回、毎年9月半ばに約一週間開催される。各国から閣僚クラスが集まる総会の時期に合わせて様々なサイドイベントなども開催されるため、IAEA 本部が一年で最も賑やかになる時期である。ウィーンで開催されるのが通例だが、過去には海外で開催された例もある。1965 年の第9回総会は日本の東京プリンスホテルで開催された。総会初日には当時の佐藤栄作総理大臣が演説を行い、科学技術庁長官として1963 年のIAEA 第7 回総会出席のためウィーンを訪れたこと、その際にIAEA の活動理念に感銘を受けて総会の日本招致を決めたこと、アイゼンハワー大統領のAtoms for Peace 演説に触れつつ、原子力の平和的利用のため日本が積極的役割を果たす決意であること、などを述べている。
 「理事会(Board of Governors)」は、35ヶ国の理事国から構成される意思決定機関であり、通常毎年3 月、6 月、9 月(総会の前及び後の2 回)、11 月の5回、それぞれ最長一週間程度開催される。イランの核問題など、緊急に意思決定を要する案件がある場合には臨時に特別理事会が開催されることもある。理事会は憲章に則り、IAEA の機能を果たす権限をもっており(憲章第6 条F)、事務局長の任命(憲章第7条A)のほか、予算の策定や、IAEA が実施する保障措置に関し、強い権限を持っている。
 興味深いのは、理事国の構成、選出方式である。各国の原子力技術に関する能力と地域バランスを組み合わせた、かなり複雑な方式(憲章策定過程でインドが提案したとされる)で決定される。理事会で指定される13ヶ国(日本を含む原子力先進国)と総会で選出される22ヶ国で構成されるが、前者はいわば「常任理事国」であり、後者は8つの地域グループ(アフリカ、東欧、極東、南米、中東・南アジア、北米、東南アジア・大洋州、西欧)の枠から選ばれる。
 「事務局(Secretariat)」は、日々のIAEA の活動を行う組織であり、職員数は約2500 人(うち日本人職員は約60 人)。管理運営部門のほか、原子力エネルギー、技術協力、原子力技術応用、原子力安全・核セキュリティ、保障措置といったIAEA の業務に応じて6つの部局があり、世界各国から集まった様々な人材が活躍している。
 事務局の頂点に立つのが事務局長(Director General)であり、任期は4 年。これまで5 人の事務局長がその任についてきた。第5 代事務局長は日本出身の天野之弥氏であり、2009 年12 月に就任、現在2 期目を務めている。

IAEAの概要

出典:在ウィーン国際機関日本政府代表部資料

天野之弥第5代IAEA 事務局長

天野之弥第5代IAEA 事務局長(写真出典:IAEA/Dean Calma)

原子力外交と日本

 これまで、IAEA を舞台に、原子力を巡る様々な問題が扱われてきた。イランや北朝鮮の核問題への対応、米国での9/11テロを契機とした核セキュリティの強化、原子力技術の応用による医療、食料、農業、水管理など様々な分野での技術支援、チェルノブイリや福島での原発事故を契機とした原子力安全の強化などである。
 日本は、世界有数の原子力大国として、原子力外交の主要プレーヤーであり続けてきた。国際協調主義に基づく積極的平和主義を基本理念に掲げる日本外交において、原子力は重要な分野の一つである。原子力の持つ正と負の両面をどの国よりも知る立場にある日本こそは、軍縮、不拡散、原子力の平和的利用の各分野において国際社会に貢献していく責務がある。そして、日本にその能力は十分にある。
 本連載では、原子力外交の最前線であるウィーンから、原子力を巡る様々な国際的議論の最新事情をご紹介していくこととしたい。

(*本文中意見にかかる部分は執筆者の個人的見解である。)

【参考資料】

“History of the International Atomic Energy Agency: the First Forty Years” (1997 David Fischer)
http://www-pub.iaea.org/MTCD/publications/PDF/Pub1032_web.pdf
“Atoms for Peace Speech”(Eisenhower, 1953)
http://www.iaea.org/about/history/atoms-for-peace-speech
“9th IAEA General Conference (1965) Records”
http://www.iaea.org/About/Policy/GC/GC09/Records/index.html

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