放射線と放射性物質(その4) 被ばくを防ぐ


国際環境経済研究所主席研究員

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3) 放射性物質の挙動と除去
 放射性物質は自然由来のラドン以外は塵埃として飛散しており、いろいろなものに付着している。塵埃なので雨や風で運ばれる。また人間活動、たとえば車のタイヤ、衣服や靴などの汚れにより拡散していく。家屋の雨どいや排水溝、水はけの悪いところに溜まる。森林で樹木の葉に付着したものはいずれ落葉により地面に落ち、落ち葉は昆虫や微生物の働きにより腐朽して放射性物質も土に混じり、溶解したものは根を通じて吸収され、樹木の活動域であり木質を形成している樹皮の部分に移行する。

 落葉広葉樹は毎年秋に落葉するのでそれを除去すれば放射性物質の除染効率は上がる。一度除去すれば蓄積線量を相当減らすことができる。常緑樹や針葉樹の場合は葉の交替に数年かけ、春と秋に二度落葉する樹木が多い。除染のために丹念に落ち葉を取り除くことになるが、落ち葉を除去してしまうと、樹木の生育に必要な肥料成分も一緒に取り去られることになる。

 セシウムの蓄積量が数千~数万Bq/m2で空間線量率の比較的低い地域は、森林保護の意味からも無理に除染をしない方が良い。樹皮から木の芯部に放射性物質が移行することはほとんどないので、樹皮を剥がして利用する木材は放射能汚染を心配する必要はない。被ばくした年に成長した年輪にはある程度含まれる。自然放射線のところで触れた屋久杉の年輪の話がその例である。

 米や野菜、果物などに含まれるのは、土から水や養分とともに放射性物質を吸い上げてしまうためで農地の汚染が問題になる理由であるが、根が届かないところまで放射性物質を埋めてしまうか、あるいは、土壌表面に付着しているので表面を除去する方法がとられる。水田の場合、森林に近いところや水の入れ替えが十分できないところでは注意が必要である。

 カリ肥料を多めに施肥してヨウ素と同じように希釈効果を狙うことも考えられる。ただし、窒素、リン酸、カリウムのバランスが悪いと作物の生育に影響するので限界がある。カリの過剰な施肥は植物のカルシウムやマグネシウムの吸収を阻害するので芽や毛根の成長点の生育に悪影響がある。

 事故から4年経ち次第に除染の効率が低下してきている。風雨などにより流出しないで土壌に残っているセシウムは、粘土鉱物などに強固に吸着して取れにくくなっていると思われる。除染作業が始まった2012年末頃でも、コンクリート舗装などは高圧水洗浄のみでは線量率の低下が不十分で、表面を削りながら洗浄する必要があった。一度固着したセシウムを削り取る作業は、特に交通量の多い道路などでは飛散による再汚染やタイヤによる拡散が心配であり、どこまで除染するべきか難しいところである。

 放射性物質が屋根や、道路などの表面に吸着してしまい除染効果が低い場合には、セシウムもストロンチウムもアルカリ性であることから、酢酸や塩酸・硫酸を使って洗浄水のpHを下げることにより、アルカリ特有の粘性がなくなって除去効果が上がる可能性がある。製紙会社では木材チップを強アルカリで煮て、できたパルプ中のナトリウム含有成分を洗浄漂白するのに、酸性の漂白薬品とアルカリ性の薬品を交互に用いることによって効果をあげている。

 放射性物質を酸で溶かし洗い流すことで除染できるが、下水処理場を経由して浄化された排水は河川を経由して海へ、放射性物質のほとんどは下水汚泥中に濃縮されてしまうことになる。しかしながら、住環境の改善を優先するためには止むを得ない。

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