放射線と放射性物質(その1) 原子と分子
二瓶 啓
国際環境経済研究所主席研究員
自然に存在する安定な元素は最軽量の水素から重いウランまで83種ある。水素は陽子1個の周囲を1個の電子が回る最もシンプルな原子で、宇宙に最も大量に存在する。次に多いのは水素原子が恒星内部で核融合を起こしてできるヘリウムである。原子の性質は原子番号―原子核を構成する陽子の数―で決まる。興味があれば周期表を参照してほしい。文部科学省がホームページで公開し販売している「一家に1枚周期表」は、個々の原子の特徴が簡潔に記載されており、またわが国のノーベル賞受賞科学者の写真と業績が載っているものもある。見ていて楽しい注2)。
原子核はプラス荷電の陽子だけでは粒子同士が電気的に反発しあうので、湯川英樹博士が存在を予言してノーベル物理学賞を受賞した中間子という微粒子を介して生れる核力(強い相互作用という)により、電気的に中性な中性子が混在して核が安定する。中間子は電子やニュートリノ、最近話題になったヒッグス粒子などとともに素粒子の一種である。
例えば重水素という原子の原子核は陽子と中性子それぞれ1個からなり、陽子1個の水素の2倍の重さである。重水素は安定な原子核であり、水素の安定同位体と呼ばれる。陽子と中性子はほとんど同じ重さで、これら粒子(核子ともいう)を単位としてあらゆる原子核の重さを質量数という言葉で表すことになっている。全て質量数は水素原子の整数倍になる。セシウム137とかストロンチウム90という名称の中の数字がその質量数である。厳密には炭素12(12C)の質量数を12と定義している。
大きな原子番号の原子ほど原子核中で陽子同士の電気的反発が強くなることから、核が安定するためにはより多くの中性子が必要になって結果的に質量数が大きくなる。余談であるが、原子の質量数(原子量)から様々な化学物質の1分子の重さである分子量が決まる。例えば水H2Oの分子量は1+1+16=18、酸素O2は16+16=32、エチルアルコールCH3CHOHは1×5+12×2+16=45である。
ほとんどの原子に安定同位体があるので原子量および分子量に端数がある。水素には、陽子1個の原子核の水素=質量数1.007825(存在度99.9885%)と、2個の核子からなる重水素=質量数2.014102(存在度0.0115%)があり、水素という物質の原子量はそれぞれの質量数の存在度から1.00794になる。さらにごく微量の陽子1個と中性子2個から成る放射性のトリチウム(三重水素)が存在するが、原子量の値に影響を与えるほどの量ではない。トリチウムについては後述する。
中性子と陽子の数の組み合わせによって原子には安定なものと不安定なものが存在する。図は安定同位体の分布図であるが、点で示した原子核の分布が右にいくほど陽子/中性子=1/1の線から離れ中性子が多くなっていることが分かる。この線から離れるほどその原子核は不安定であり、壊れるのも早い。恒星の中心などで原子が創られるが、不安定な原子核は短時間で壊れて安定な原子核になる。地球ができて46億年経過しているとされており不安定な原子核はなくなって、安定な世界になっているはずである。
- 引用文献;
- 注1)
- 紙パルプ技術タイムス 2012年6月, 環境対策ガイド2012
- 注2)
- 文部科学省:「一家に1枚周期表」, http://stw.mext.go.jp/series.html