幻想排し、あるべき貢献の姿探る
書評:上野貴弘・本部和彦 編著「狙われる日本の環境技術 -競争力強化と温暖化交渉への処方箋 」
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
(電気新聞からの転載:2015年1月16日付)
「日本の優れた環境技術で世界の温暖化対策に貢献する」。この言葉に異を唱える人はいないだろう。耳障りがよく、当たり前のように使われる表現でもある。しかし技術とはそもそも何を指すのか。どのような技術を、どうやって世界に普及させるのか。「良い技術は放っておいても選択され普及していく」という幻想を越え、具体策を持って語られることはほとんどない。本書は豊富な事例をもとに日本の技術が競争を勝ち抜き世界に普及するための方策を提案すると共に、国連気候変動交渉を俯瞰しながらあるべき技術移転協力について探る。
温暖化対策に資するエネルギー・環境技術のニーズが高まっていることは、日本企業にとってチャンスであることは間違いがない。しかし同時にピンチでもありうる。中国、韓国を筆頭に多くの新興国企業が競争相手として台頭している。例えば高効率な石炭火力発電プラント(USC)については、「日本企業による設計・調達・建設は、中国企業よりも2割程度の割高であるという(1章)」中で、信頼性においてどれほど優位なのか、また、カタログに表記できない「信頼性」というスペックをどう評価に織り込ませるのか。民間企業には、コスト低減や技術開発に継続的に取り組むこと、製品とサービスの融合によって顧客を取り込むなどの工夫が求められる。しかしこれだけで様々な導入障壁を越えられるわけではなく、相手国政府の省エネ法等政策策定やファイナンススキームにおいて日本政府が適宜支援することが求められる。
今年は、12月にパリで開催されるCOP21で2020年以降の枠組みに合意することが目指されており、それに向けた準備会合等も相当回数行われる。まさに「温暖化交渉イヤー」である。その中でも技術移転と資金支援をどう有意にリンクさせ、温暖化対策として有効な技術の普及をどう図るかに議論の焦点が当たることは間違いない。徒に国別削減目標の数値の高低や提出時期の早い遅いを気にするのではなく、具体的な技術の普及に対して貢献することが日本には求められている。温暖化交渉イヤーの幕開けにぜひ読んでおくべき一冊である。
※ 一般社団法人日本電気協会に無断で転載することを禁ず
「狙われる日本の環境技術 -競争力強化と温暖化交渉への処方箋」
著者:上野貴弘・本部和彦(出版社: エネルギーフォーラム)
ISBN-10: 4885554136
ISBN-13: 978-4885554131