関西電力の苦悩-エネルギー・温暖化関連報道の虚実(11)


国際環境経済研究所前所長

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 関西電力の苦悩は、むしろ電源構成にあります。原子力による発電量が5割超あった同社としては、再稼働の可否が決定的な重要性を持ちます。原子力発電による発電単価が1円/kwhであるにもかかわらず、その代替である化石燃料は10数円から30円にもなるため、その燃料費増は「往復ビンタ」で効いてくるとも言えます。

 ましてや同社にしてみれば、自社は事故を起こしたわけでもないわけですし、地球温暖化問題への対応という意味では、震災前はむしろ優等生の電力会社だったわけですから、他律的な突然の状況変化を恨みたくなるでしょう。

 某市長が、関西電力は電源構成の選択について、経営判断を誤った結果だと非難しているようですが、それこそ「後知恵」というものです。電源構成の変化には10−20年もかかるわけですから、今から10−20年前の状況の中で行われた経営選択が合理的だったかどうかが問われなければなりません。

 こうした状況下、一方で電力システム改革ということで小売の自由化は進んでいくわけですから、電源構成がたまたま今の状況下で有利となった他社に、みすみす自らの顧客を奪われていくことになりかねない状況にあります。
 上で紹介した大阪商工会議所のアンケートでは、1割強(11.2%)の企業が関西電力管内での事業活動を縮小または抑制するとしているほか、関西電力以外からの電力購入を探る動きも3割以上(32.0%)で見られるようです。
 
 このように、関西電力とすればいろいろ言いたいことはあると思いますが、だからといって他律的な環境を恨んでも、反作用的な批判しか戻ってこないのが現実です。
 ここは値上げ申請の必要性(修繕費のカットが及ぼす安定供給への悪影響が最も大きな客観的理由でしょう)を冷静に説明し、愚直に再稼働に取り組んでいくしか、当面の業績回復⇒電気料金安定は見込めません。

 これまでに償却し終えた資産である原子力発電所を最大限活用していくことが、当面の同社にとっての合理的経営判断でしょう。高浜1、2号基は廃炉にせず、運転期間を60年に延長する申請を行うかどうかを検討しているという報道も、「原子力をやりたい」といった動機ではなく、経済合理的な判断に基づくものだろうと推測されます。
http://www.marketnewsline.com/news/201501231118000000.html を参照。)

 ただ、これらは短期的な対応にしかすぎません。値上げが認められて、原発の再稼働もメドがたてば、今度は中長期的な経営戦略を構築する必要があるでしょう。 

 ドイツでは、最近E-onという大手会社が会社を送配電+再エネ会社と従来電源発電会社に分割するというような荒療治も見られています。
 日本でも電力・ガスのシステム改革や原子力事業再編などが視野に入ってきた現在、関西電力はもちろん、その他の電力・ガス会社もアライアンスや事業再編など、大きな構造改革もあり得る時代になりました。

 先日、CATVで「黒部の太陽」ノーカット版を見ました。関西電力は、昭和30年代当時の電源不足とピーク対応のために、破砕帯を突っ切る困難なトンネル工事を熊谷組などのゼネコンと一緒に完成させ、いわゆる黒四ダムを建設したベンチャースピリットを持った会社でした。
 これからの時代にはユーザーにとって、低廉かつ安定的なエネルギー供給が確保されるような事業体制を自ら実現していくことが、次世代の黒四プロジェクトだと言ってももよいでしょう。