事故調の公開調書は、犯罪捜査に使われるべきではない-エネルギー・温暖化関連報道の虚実(5)
澤 昭裕
国際環境経済研究所前所長
1月10日の福島民友ニュースが、「東京電力福島第1原発事故を招いたとして業務上過失致死傷容疑などで元東電幹部らを告訴・告発した「福島原発告訴団」が13日に新たに同容疑で東電社員や当時の原子力安全・保安院の関係者ら5人を東京地検に告訴・告発することが9日、告訴団への取材で分かった。」
と報じています。
http://www.minyu-net.com/news/news/0110/news2.html
NHK、朝日でも報じられています。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150113/k10014633421000.html
http://www.asahi.com/articles/ASH1F3JSZH1FUTIL014.html
告訴団によると、その後に公開された政府の事故調査・検証委員会の「聴取結果書(調書)」や元国会事故調査委員会協力調査員の著作などから、事故の責任がある人を追加で特定したとしているそうですが、少なくとも政府事故調の調書を告発の根拠とすることは認められてはならないと思います。
今回の調書公開は、そもそも朝日新聞が、政府事故調の吉田昌郎元福島第一原子力発電所長の調書をスクープで抜いたことが発端になっており、その他の調書も公開すべきだという声が高まった中、政府が本人の承諾を前提に始めたものです。
大きな事故の調査は、原子力発電所に限らず、飛行機や鉄道の事故などでも行われますが、大事なことはその調査の目的が、責任者の特定と追及のためなのか、事故原因の特定と再発防止策の検討のためにあるのかを最初に明確にしておかなければならないということです。
もし、その区別があいまいだと、関係者の陳述が自らの責任追及を恐れて重要なポイントに触れないものとなったり、誤解を生じるようなものとなったりする恐れがあるからです。後者の目的で調査が行われる場合には、したがってその陳述が犯罪捜査のために使われないこと、公開されないことが前提となっていなければなりません。
今回の政府事故調の設置の経緯や、陳述目的についていえば、それが犯罪捜査の一環として行われるものではなかったはずです。したがって、そもそも公開されるべきではないし、ましてや今回の「福島告訴団」のような、その情報に基づいた告訴・告発は受理されるべきではないでしょう。
今後とも原子力発電所に限らず、さまざまな大きな事故が起こることは間違いありません。今回の事故調の調書の扱いは、今後起こる事故の調査や対策検討を極めて困難にしてしまうかもしれません。そうなれば、事故の再発が防げないという危険も冒すことになります。
こうした事故調査プロセスで有効な結果を得るためには、自らの陳述の非公開、それによっては刑事罰の訴追を受けることがないとの保証を法的に担保するしかなくなるでしょう。
既に東京電力の当時の幹部連に対しては、検察審査会の「起訴相当」との議決に基づいて東京地検が再捜査をしている最中です。今回告発されることになるかもしれない追加の人たちについての取り扱いがどうなるかはまだ分かりませんが、今回公開された調書は、いずれの捜査でも使われてはなりません。