米国電力市場の自由化
山藤 泰
YSエネルギー・リサーチ 代表
これから日本で始まる電力事業の全面自由化とのからみで米国の動向を眺めている。
米国には3千を超える電力供給事業者(ユーティリティー)がある。電力とガスの両方を供給しているものも多い。その中で、民間事業者の数は200ほどで少ないが、事業規模が大きいものが大半で、その販売シェアは70%に近い。事業者の中で圧倒的に数が多いのは、市や州などが運営する公営事業であり2,000ほど。それに次ぐのが協同組合方式の事業者で900近くになる。この他に、パワーマーケターと称される事業者も200以上あるし、テネシー・バレー・オーソリティー(TVA)のような連邦政府が運用する事業者も10足らずある。
米国の電力市場自由化は、1992年に始まったが、それを受け入れているのは24州だけであり、その中でカリフォルニア州のように途中で中止したところもあって、現在自由化をフルに実施しているのは、テキサス、ニューヨークなど16州に止まっている。その自由化された市場で、現在数千に上る事業者が電力供給とそれに関連したサービスの提供を行っており、テキサス州だけでも700を超える数となっている。
電力供給事業者が一旦獲得した顧客も、いつ他の事業者に乗り換えるかもしれない。テキサス州では30%以上の顧客が動くという。そこで見られる熾烈な競争の鍵を握るのは、いかに消費者が理解して受け入れやすいメリットを長期的に提供できるかである。アップルやグーグルといった大手IT企業が、エネルギー消費の削減に向けて開発したシステム、あるいは、スマートフォンなどのモバイル端末による制御アプリを自社サービスの中に組み込む差別化が急速に普及するようになっている。しかし、消費者が究極的に重視しているファクターは支払う料金であることに変わりはない。
この料金について面白い方式を提示している事業者もある。家庭用向けのものだが、週に1日どの日でも良いから選択すればその曜日には料金を無料にする(フリーパワー・デイ)といった方式だ。この場合、顧客が選択する曜日は殆どが土曜日だという。友人などを呼んでパーティーを開いたりする家庭が多いからだろう。この料金制度は電力供給事業者にもメリットがある。オフピークの時間帯になるため、設備の利用率を上げるというメリットが出るからだ。
顧客が一定期間は他の事業者に移らないようにする引き留め策の一つに、オン・ビル・ファイナンス(料金徴収と融資返済やリース支払いを一体化)がある。これは、主として効率の高いエネルギー消費機器や制御システムの設置などを対象にしたもので、利用者から見ると、以前の支払い料金程度の出費で融資返済もすることができる。このファイナンス契約はある程度長期のものになるから、その期間中に顧客が他の事業者には移りにくくなるというわけだ。米国の電力・ガス供給事業者は、消費の効率化施策を実施する義務を負わされているのが殆どだから、その目標達成に向けた具体的行動にもなる。
5年、10年後に、日本でどのような差別化競争が出てくるかを推察するのに参考となるものではないだろうか。