再生可能エネルギーの普及策 抜本見直しを(前編)
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
(会議所ニュース2014年10月21日号からの転載)
再生可能エネルギーの普及のために導入された全量固定価格買取制度(FIT)が導入からわずか2年で行き詰まっている。再エネ普及策の抜本見直しに向けた課題と見通しなどについて、今号と次号(11月1日号)の2回にわたり、紹介する。
再生可能エネルギーの全量固定価格買取制度(以下、FIT)を評して、スティーブン・スピルバーグ監督の映画に登場する怪獣「グレムリン」と表現された方がいる。最初はかわいらしい風貌をした珍獣であるが、人の家庭に入り込み、飼育方法の禁が破られたことで一気に凶暴な怪獣になる様を、最初は軽微な賦課金があっという間に膨張し国民経済に大きな影響を与える様に例えた表現である。なるほどイメージが伝わりやすいと感心したが、感心している場合ではなく、このイメージそのままに制度導入からわずか2年で、これまでに認定を受けた発電設備が全て運転開始した場合、1年間に私たち電力消費者が負担する賦課金が2兆7000億を超えると試算されるまでになっている。導入当初は確かに「この程度ならかわいいもの」と言える負担だったはずが、いつの間に、なぜこれほど膨らんだのであろう。これから私たちはどれほどの負担を背負うことになるのであろうか。
関東圏で印刷業を営む中小企業(仮にA社とする)の方から実際の電気料金データをご提供いただいたので、具体例に基いて検証したい。
これまでの電気料金上昇の要因
下記のグラフ(①)は実際にご提供いただいたA社の2012年7月から本年8月までの電気料金単価の推移である。この2年ほどで約3割上昇している。
この価格上昇の要因は何か。企業経営に携わっておられる皆さまには釈迦に説法の極みであるが、電力料金は基本料金(kWに対する契約金額)と電力量料金(電力料金単価にkWhすなわち使用量を乗じた金額)、それに再エネ発電賦課金などを加えて算出される。料金単価は7月から9月までの夏季料金とその他の季節に分けて設定されており、また、燃料価格の変動に応じて自動的に電気料金を調整する「燃料費調整制度」が導入されているので、毎月算出される調整単価と電力使用量を乗じた金額を加除して、電力量料金は決定される。
実際にご提供いただいた電力料金の単価を電力量料金、燃料費調整額、再エネ発電賦課金、太陽光促進付加金に分解して推移を確認する。この2年間の毎月の推移を表にすると見づらいので、その中から7月と1月という半年ごとのデータを抜粋したのが下記の(②)である。
基本的には電力量料金本体の値上がり幅が最も大きく、2012年7月と2014年7月を比較すると3.34円/kWh上昇している。次いで燃料費調整単価が1.79円/kWhの上昇となっており、原子力発電所停止に伴い火力発電の比率が増えたこと、そして化石燃料価格の上昇が電気料金上昇の主要因であることは間違いがない。
これまで再エネ発電賦課金が電気料金に与えた影響は、まだ「かわいいもの」といえるだろう。しかし、その上昇のスピードに注意が必要だ。2012年7月にこの制度が導入された時には、0.22円/kWhであった。それが翌年4月分からは0.35円/kWhとなり、更に2014年からは前年の倍以上となる0.75円/kWhとなっている。
そして冒頭で紹介した通り、9月30日に開催された総合資源エネルギー調査会の新エネルギー小委員会において、FITによりこれまで認定された発電設備が全て運転開始すれば、単年度の賦課金は2兆7018億円、賦課金は3.12円/kWhに上昇するという試算が示された。現在の賦課金の約4倍にもなる計算だ。