CO2の排出量は計画できない

「数値目標」ではなく「参考数値」とすべし


キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹

印刷用ページ

日本のCO2数値目標をどうすべきか。今回は、過去の数値目標を振り返ろう。結論:政府に数値目標を達成する能力は無い。数値目標は強制するのではなく、飽くまで「参考数値」に留めるべきだ。

 日本は京都議定書の数値目標を「達成した」。しかしながら、エネルギー起源のCO2が減ったのか、というとそうではない。1990年と比べて、2012年には14%も増えてしまった。CDMや森林吸収で帳尻が合っただけのことだ。
 ではこの間、日本政府は多くの温暖化対策を実施したが、その効果はあったのか?

図1 家庭部門
図1 家庭部門のCO2排出量。縦軸は1990年比の増加率。
05年の当初計画は08年に改訂されたが、実績値はその両者を大きく上回った。

大きく外れた家庭・業務部門の予測

 議定書の締結後、2005年に京都議定書目標達成計画(以下、単に「計画」)が定められて、それに沿って政策は実施された。だが、家庭部門と業務部門では、排出量の見通しは大きく外れた(図1図2を参照)。計画が策定された当時、家庭・業務部門は2002年に1990年比で既に各々29%、37%の排出量増だったことが分かっていた。計画では、その増加傾向が「反転」して、2010年には各々6%、15%まで減少する、となっていた。
 だがこの2010年の目標は計画の実施途中で各々10%、27%に変更され、結局、2012年の実績値は業務・家庭部門でそれぞれ60%、66%と、大幅に当初計画を上回る排出量増加になった。これには原子力発電停止の影響ももちろんあったが、震災前の2010年時点で各々35%、32%だったので、震災が無くとも、当初の計画を大きく上回ったことに変わりはない。
 これは、リーマンショックやエネルギー価格高騰にも関わらず起きた(これもまた、全く予想できなかった)。もしもこれらがなければ、当然、もっとCO2は増えたはずだ。

図2 業務部門
図2 業務部門のCO2排出量。縦軸は1990年比の増加率。
05年の当初計画は08年に改訂されたが、実績値はその両者を大きく上回った。

 他方で産業部門では、石油価格高騰や金融危機などの影響もあり、計画策定時の見込みよりもCO2が減少した。結局、CDM、森林吸収、他の温室効果ガスなどを勘定に入れて、その合算として、当初計画で想定したのとは全く違う形で、京都議定書の数値目標達成という帳尻は合った。

数値目標を確実に達成する計画などない

 2005年の計画策定以来、個別の技術および政策ごとの積み上げによって数値目標が達成可能であると主張する政府資料は何度も作成された(例えばこちら注1)がある)。しかし、これらの資料は、分厚いものだったが、内容は不透明で、数値目標の達成を担保するものとは到底言えなかった。技術ごとの積み上げは、どの機器がどの程度のエネルギー消費に寄与しているのかという消費実態からして、精度のよくない推計に頼らざるをえない。機器の普及率の想定はしばしば大きく間違える。技術ではなく、政策の効果の推計となると、もっと不確実性が高くなる。
 このような積み上げ計算は、個々の政策評価のためには必要である。だが使用法を間違えてはいけない。積み上げ計算は、数値目標の達成を担保できない。
 このことは、京都議定書目標達成計画において、リーマンショックやエネルギー価格高騰にも関わらず、家庭・業務部門で目標が大きく未達に終わったことで、はっきりと証明された。

数値目標ではなく「参考数値」にすべし

 日本だけでなく、一般的に言って、国、なかんずく民主国家には、CO2目標を確実に達成する能力はない。従って、その数値目標は、国内的なものであれ国際的な公約であれ、「非拘束的な目標」ないしは「参考数値」とすべきであって、「拘束的な目標」とすべきではない。
 なお本稿についてさらに詳しくは拙著「地球温暖化とのつきあいかた(ウェッジ社、9月20日刊行)」をご覧ください。

注1)
京都議定書目標達成計画平成20年3月28日全部改定 参考資料2
「別表1~6の具体的対策の排出削減見込み量の根拠」:
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/kptap/plan080328/d-05.pdf

記事全文(PDF)