レシプロエンジン発電で風力発電の出力変動に対応
山藤 泰
YSエネルギー・リサーチ 代表
米国のカンザス州は、風力発電に適した風が吹く地域として知られていて、同州の消費する電力の20%は、州内に設置された3百万キロワットの風力発電設備で賄われている。この州の南東部に、グラント・カウンティーという人口は8千人足らずの田舎町があり、そこの近くに25万キロワットの風力発電が設置されようとしている。この地域の電力事業は発電協同組合が幾つか集まって運営されているのだが、風力発電規模の増大によって起こる電圧変動の抑制をどのようにするかの課題解決を迫られるようになっていた。
この地域の発電所は天然ガス価格の低下もあって、天然ガスタービンによる発電が多く、その制御技術の向上もあるものの、電力需要地が遠くにあることから、大規模な風力発電の導入によって起こる電圧変動の抑制に関しては反応が遅れがちで,電力の安定供給に支障を来す可能性も有りうると予想されたのだ。そのことから、これまで集中型発電所ではほぼ姿を消していたレシプロエンジンによる発電の導入が実現することになったという。ガスエンジンは出力制御が容易で、その反応スピードも早い。その理由から、これまで主流であった分散電源としての利用から踏み出して、大規模発電所にも最近設置されるようになっている。エンジン発電機の容量も、驚くほど大きくなっている。
カンザス州で完成間近の発電所の場合、米国のC社が新規開発した大規模レシプロガスエンジン12台によって、11万キロワットの発電をする。この設備は8分以内でフルパワーに立ち上げることができ、系統電圧の変動へ対応して出力を上げたり下げたりするのが短時間ででき、しかも、それによって発電効率がほとんど影響を受けない性能を持っている。そして、複雑な構造をしたタービンをベースにしたものに比べて、メンテナンスなども少なくて済むという。発電効率については,天然ガスコンバインドサイクル発電に比べると低くなるのはやむをえないところだが、長期的に見れば、レシプロエンジン発電機の柔軟性はその欠点を補って余りあるものになると想定されている。
ガスエンジンの場合、出力変動への対応には、一部の限られた数のエンジン出力を絞れば良く、残りのエンジンは最高効率で稼動を継続することができるし、短時間で出力を減らす必要が出た時には、幾つかの発電機を系統から切り離すことで、迅速な対応をするという芸当も可能だ。そして、見合った熱需要が近くに有れば、このエンジンに排熱回収設備を付けてガスコージェネレーション(CHP)にすることで,エネルギー効率はコンバインドサイクル発電を上回らせることも可能となる。メンテナンスについても、12基のエンジンを順番に止め、残りは稼動を続ければ良いため、発電所としては稼動を停めることにはならない。この方式は、すでに系統の電圧変動が大きくなっている発展途上国にも適したものになると考えられている。
他のエンジンメーカーも、発電規模を大きくしようとしており、5万キロワットから20万キロワット、しかもデュアルフューエルにしたレシプロエンジン発電所も商品化されている。日本のエンジンメーカーも競っているようだ。ドミニカ共和国の事例では、24基のエンジンを設置して、43万キロワット規模にした発電所が2013年末に稼動を開始し、近くの金鉱と遠距離までの送電系統に電力を供給しており、ベースロードとしての役割と電圧安定化の目的を同時に達成している。高地でありながら気温の高いところではガスタービン発電は発電効率がぐんと落ちるのだが,過給器を二段にした大規模ガスエンジンなら対応可能になる。
筆者がたまたま見つけたこの情報には、大小のエンジンを組み合わせた事例などいろいろ紹介されているが、このようなガスエンジン発電方式を日本に導入することにも大きな意味があると考えている。大規模発電所の出力制御がやりやすくなり、太陽、風力発電の設置を促進しやすくなるからだ。さらには、このようなエンジンシステムがコージェネレーションとして地域単位で分散して設置され、一つの制御システムに組み込まれれば、コミュニティー・エネルギーシステムの構築によって系統の安定化に貢献する役割を果たすことも可能になるだろう。デュアルフューエルエンジンであれば、非常用発電設備にもなる。日本でも、規模がこれまでより大きなレシプロエンジン発電設備が導入され、排熱回収と組みあわされながら普及する必然性が大きいと気付かされた。