震災直後の東電による取引所取引の停止は「暴挙」か?


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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「給電指令時補給電力」とは?

 東日本大震災によって東京電力は、太平洋沿い・東京湾岸の火力発電所や内陸の水力発電所等、合計2,100万kWの発電能力を喪失した。これは東京電力の「電気の生産能力」の約3分の1にあたる。そのため東電の系統運用部門は、500~1000万kWとも言われる大幅な需給ギャップに直面し、計画停電によってこれを調整するという非常時の業務に忙殺されることとなった注3)。平時であれば、取引所で取引が成立する都度、あるいは新電力が発電計画を変更する都度、託送可否判定を行う要員を常時配置していたところが、それがままならなくなったのだ注4)。そのため、東電の系統運用部門は、JEPXに対して取引の停止を要請し、JEPXは、理事長判断としてこれを承認した注5)

 加えて東電は、新電力や自家発の保有者に対して、自らの電力需要にかかわらず電源をフル稼働してもらうよう要請した。絶対的に電気が足りないことは明らかなのだから、発電出来るだけ発電して欲しい、発電した結果余った電気は全て東電が購入する、としたわけである。このようにすれば、発電計画の変更、つまり通告変更も減少する。平時に託送可否判定のために配置されている要員を他の業務に振り分けることが出来る。

 発電した余剰の電気は全て東電が買い取る、と言うと、東電が電気を買い占め新電力に嫌がらせをした、と思われるかもしれない。JEPXの取引が停止したので、JEPXからの購入電力に普段依存している新電力が困ることは当然想定された。そうした新電力には、東電が「給電指令時補給電力」というスキームを使って必要な量を供給したのである。給電指令時補給電力とは、電力会社の系統運用部門の都合による給電指令等により、新電力に不足電力が生じる場合に、これを補うものとして予め要綱注6)に定めているもので、その単価は全電源平均発電単価注7)に基づく。当時の単価は11.66円/kWhであり、JEPXのスポット価格よりも割安である。

注3)
震災直後東京電力が実施した計画停電は大きな批判を浴びた。しかし、電力は需要と供給が常に「同時同量」でなければならず、そのバランスが大きく崩れればブラックアウトに至るため、計画停電は、制約条件の中で可能な限り安定供給を確保するための需給安定化方策とされる。世界中の系統運用者のマニュアルに掲載されており、先進国にも実施事例は相当数存在する。東日本大震災の1カ月前にはアメリカのテキサス州で実施されたし、2011年夏には韓国でも実施された。それ以前のものでは、2001年に自由化に失敗したカリフォルニア州で実施されたものが有名である。
注4)
加えて、地震により電源・送電設備が大量に被災・停止したため、系統構成(発電設備・送電設備の接続状況)が通常とは大きく異なるものとなり、託送可否判定に通常より時間がかかることが想定された。
注5)
JEPXが承認にあたってよりどころとしたのは、業務規程の第5条第3項による。「第5条3項:本取引所は,必要があると認めるときは,取引業務の全部または一部を臨時に停止する,もしくは臨時に行うことができる。」
注6)
例として東京電力の給電指令時補給電力要綱は
http://www.tepco.co.jp/corporateinfo/provide/engineering/wsc/hokyuuK2409-j.pdf
注7)
ちなみに、議員は再生可能エネルギー固定価格買取制度に関する議論で、全電源平均発電単価に基いて計算するため「回避可能費用が不当に安くなっている」「ボッタクリ」と批判しているが、この給電時補給電力の単価も全電源平均で計算されている。