蟷螂の斧

-河野太郎議員の電力システム改革論への疑問③-


国際環境経済研究所前所長

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連系線の運用容量問題

 2014年6月11日付河野太郎議員ブログ記事 「いよいよ電力の自由化へ」に下記のようなことが書いてある。

日本国内の電力会社間の連系線の容量を見ていると不思議なことがある。
東北電力と東京電力間の連系線は1262万kWの容量があるはずだが、東京から東北へ電力を送る運用容量は120万kWと、その10分の1に制約されている。しかし、専門家によれば、この運用容量を超える運用が行われているという。
中国電力と九州電力の間の関門連系線の容量も556万kWなのだが、中国電力(原文では、四国電力となっていたが、間違いと思われるので、筆者の判断で修正した。)から九州電力へ送電する際の運用容量は30万kWと10分の1以下に抑えられている。しかし、九州電力の新大分火力発電所がダウンした時には中国電力から九州電力へ60万kWを超える送電が行われた。運用容量はどうしたのだろう。電力会社は「短期的な対応だから」と言い訳をしたようだが。

 このブログは、随分と専門的な内容に切り込んでいて、議員が熱心に勉強されていることが伺われる。ここでは、議員が「不思議なこと」と「どうしたのだろう」と疑問を呈しているポイントについて、見ていきたい。
 議員ご指摘の「容量」(東北電力と東京電力間の1262万kWや中国電力と九州電力間の556万kW)は、正確に言うと「全ての設備が健全である前提の下での連系線の熱容量」のことである。つまり、設備事故が発生していない状況において、送電線が過熱しない程度に目いっぱい電気を流すとこれだけ流れる、というものだ。設備の過熱だけを心配するなら、ここまで電気を流すことが可能なのであるが、実際の運用における容量、つまり運用容量は、これだけではなく、電力系統に事故が起こった場合に、停電が発生しない、あるいは発生しても大規模なものにならない、という視点からの限界を考慮している。
 電力系統に起こる事故を想定する基準は、「N-1基準」とよばれる万国共通の考え方がある。電力系統内にN個の設備があるとして、「1設備がトラブルで欠けても(N-1)停電しない。2設備(N-2)以上がトラブルで欠けた場合の停電は許容する」という考え方だ。連系線の運用容量は、このN-1基準を踏まえて、次の①~④を考慮した限界値のうち、最小の値を採用する。

 ①
熱容量 送電線が1回線故障しても、残った回線の温度上昇が許容範囲に収まる(ここで言う熱容量は、送電線が1回線故障した場合を前提に、残った回線で流すことが可能な容量であるので、議員が言う容量《全ての設備が健全である前提の下での熱容量》以下の値。)。
 ②
系統安定度 送電線が1回線故障しても、発電機が安定運転できる。
 ③
電圧安定性 送電線が1回線故障しても、電圧を維持できる。
 ④
周波数維持面 連系線のルート断事故による系統の分離が発生しても、周波数を維持できる。

 上記の結果、連系線の運用容量は、「全ての設備が健全である前提の下での熱容量」よりも小さい値になるのが通常である。議員ご指摘の「東京→東北の運用容量は120万kWに制約されている」「中国→九州の運用容量は30万kWに抑えられている」は、上記の基準に則ったものである。これを議員は「不思議なこと」と言っているが、実は世界共通の考え方なのだ注1)

注1)
なお、「全ての設備が健全である前提の下での熱容量」は連系設備を増強しなければ変化しないが、運用容量は、発電設備の状況が変わり、想定する事故の前提が変われば変わりうる。東京→東北の120万kW、中国→九州の30万kWはいずれも最新の値ではない。(最新の値は、電力系統利用協議会「各地域間連系設備の運用容量算定結果-平成26年度」を参照。)