GHG削減には、全体最適の視野が大切(3)

製品等を通じたGHG排出削減貢献量評価


一般社団法人日本化学工業協会 技術部長

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 前回は、GHG排出削減政策立案のための参考資料として、全体最適の視点から、化学業界が推進した具体的活動について紹介した。ライフサイクル分析の専門家の視点から難しい挑戦である製品の比較作業の透明性、信頼性確保のためのガイドラインは、多くの分野の方からも関心高く受け入れられつつあると実感している。
 今回は、化学セクターを超えたAvoided Emission算定に関する活動の拡がりの進捗状況についてご紹介させていただく。

4、今後の動向 - 化学セクターを超えたcLCA手法の関心の拡がり

 前回ご紹介した日化協の「CO2排出削減貢献算定のガイドライン」作成の活動は、「第9回LCA日本フォーラム表彰」(主催:LCA日本フォーラム)において『経済産業省産業技術環境局長賞』を受賞した。協会の活動をこのように評価してくださったLCA日本フォーラムには感謝しております。
 また、ICCA・WBCSD化学セクターと協働で推進した「GHG排出削減貢献量算定・報告のグローバルガイドライン」作成の作業は、GHGプロトコルの知ることになり、2013年11月 GHGプロトコルの下で、Avoided emissions算定に関するニーズ調査 (11月5日―12月11日、2013年)が行われた。
 2014年3月に公表された調査結果によると、

回答者の93%が、Avoided Emissionsの算定方法があれば、算定・報告に興味がある
回答者の79%が、Avoided Emissionsの算定ガイドラインあるいは標準規格が必要
回答者の69%が、Avoided Emissionsの算定・報告は事業戦略の決定に有用

 と回答している。
 これらの結果を受け、GHGプロトコルによる統一性のある基準作りへの対応が近日中に決定されることを期待している。

 製品によるGHG削減貢献量(Avoided Emission)算定手法については、自治体・産業界・LCA学会でも必要性が認識されてきており、グローバルな算定手法規格化の機運は十分醸成されてきたといえる。

4-1 産業界の動向

 産業界では、電気電子業界で活発にGHG削減貢献量の算定についての議論が進められており、電気通信事業者団体等で組織されるICT(情報通信技術)分野におけるエコロジーガイドライン協議会では、「CO2の排出に関する装置等の評価」、「ラベリング」、「エコICTマーク」の表示等を内容とする「ICT分野におけるエコロジーガイドライン」を平成22年(2010年)に策定している。このガイドラインはその後5回改訂され、平成25年に、第4版が出版されている。
 また、国際電気通信連合(ITU)電気通信標準化部門(ITU-T)の「情報通信技術(ICT)と気候変動グループ(SG5WP3)」においてICTの利活用によるCO2排出削減効果の評価手法「ICT製品・ネットワーク・サービスの環境影響評価手法」が2012年3月8日付でITU-T勧告L1410として承認され、同年3月29日公表された。
 更に、(一社)日本電機工業会を中心に、電気・電子製品の使用を通じたGHG削減貢献量の算定方法について、IEC(国際電気標準会議)での技術報告書(TR)とすべく作業中である。

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4-2 自治体の動向

 自治体においても滋賀県、川崎市などは製品を通じたGHG削減貢献推進に熱心である。
 滋賀県では、平成23年3月に「滋賀県低炭素社会づくりの推進に関する条例」を制定し、その記載項目の一つに省エネ製品等の生産・普及を通じた低炭素社会への貢献について掲げ、「滋賀県製品等を通じた貢献量評価手法  算定の手引き」を作成した。
 川崎市では、省エネ製品等のGHG削減効果について、計画書制度で記載するための「『域外貢献量算定ガイドライン』、『川崎メカニズム』を作成・公表している。

4-3 アカデミアでの動向

 自治体・産業界による上記のAvoided Emission算定の動きが活発な状況を踏まえ、日本LCA学会として、工学院大学 稲葉教授が研究会を立ち上げ、Avoided Emission算定の指針策定を開始することとなった。
 2014年10月には、つくば市で「EcoBalance 2014(第11回エコバランス国際会議」が開催される。LCAなどのライフサイクル思考の実践に動機の与えられる社会が望まれることから、会議のテーマを「Creating Benefit through Life Cycle Thinking」としている。

 製品によるGHG排出削減貢献量評価の作業は一つのセクター単独ではなし得ない事業である。
 国内においては、産業界における日本経団連との連携、グローバルにはWBCSDとの連携ができているこのタイミングを活かし、化学産業が提唱して始まったこれら一連の流れを更に強めるべく、化学業界の国際組織ICCAに設置されている E&CC LG(エネルギーと気候変動を主要課題として活動しているグループ)の下に、LCA ベストプラクティスタスクフォースのメンバーを中心に、他業界も巻き込んで、セクターを超えたグローバルなGHG排出量算定の規格確立を目指して、活動を継続・推進していく新しいタスクフォースも立ち上がった。
 このタスクフォースでは、世界各国の化学工業協会に働きかけ、各地域の事例研究を進め、これら事例を集めることから作業を開始している。今後外部のグループで同じような活動が始まれば、その活動に積極的に加わって、考え方の統一を図り、化学業界にとどまらず広く誰でも共有化できるGHG排出量算定の規格として確立できることを願っている。
 部門を超えたGHG排出量算定手法が確立されれば、これまでのどちらかというと部門別の政策議論から、cLCA手法を活用した、広い視野から全体最適の議論がますます活発になることが期待される。

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