中国も環境対策に本腰を入れるか
小谷 勝彦
国際環境経済研究所理事長
今年6 月、中国の国家気候変動専門家委員会のメンバーである何建坤氏が「政府は次期5カ年計画(2016~2020年)において、二酸化炭素(CO2)排出量の絶対的な上限を設ける」と述べたとロイター通信が報じた。
現在の第12次五か年計画(2011~2015年)では、拘束力を持った目標として、GDP当たりのエネルギー消費量(0.68トン標準炭換算/万元)とGDP当たりの二酸化炭素排出量の削減率(5年間で17%)が定められているが、あくまでGDP当たりの原単位目標であり、絶対値目標は設けていない。
中国はこれまで、自らを途上国として先進国並みの経済成長を遂げる権利があると主張し、総排出量削減目標に反対しており、この発言に対して諸外国からは「本当かな?」と受け止められている。
これに先立つ5月、国務院は「2014~15年の省エネ・排出削減および低炭素発展に向けた行動プラン」を国内に通知し、深刻な過剰生産能力を有している鉄鋼業界に対して、新規プロジェクトの抑制と環境面で問題のある設備の生産停止、減産、工場閉鎖処分を打ち出した。
また、昨年11月には、最大の鉄鋼生産省の河北省において、民間企業の老朽鉄鋼設備を爆破するシーンを全国テレビ放送し、習近平政権が本気であることを見せつけてきた。
「上に政策あれば、下に対策あり」の中国であるから、地方政府幹部にとって地方のGDP成長こそが昇進の基準であり、雇用問題も考えると人員削減につながる過剰設備削減は実効が上がらない。
私も2000年代後半、河北省において、中央政府の過剰能力削減指示で淘汰対象の300m3の小規模老朽高炉が廃止されるすぐ隣で、能力拡大になる450m3の高炉が建設されている現場を見て驚いたことがある。
8月末、ユースオリンピックが開催されている江蘇省南京市を訪問する機会があった。
南京は明代の首都であり緑が残っている都市であるが、日本と比べて緑が少ない中国の印象に反して、整備された高速道路とライト・トレイン沿いの街路樹が青々していた。
現地民営企業の経営者と話をしたが、「地方幹部もGDP成長のみならず環境対策を考慮しないと出世もできなくなった」と言っており、かれの会社も環境設備に投資をしているのに感心した。
習近平政権は「腐った虎もハエも一網打尽」という腐敗撲滅キャンペーンで汚職幹部を次々摘発し、権力基盤を固めつつある。この結果、面従腹背の地方政府も従わざるを得なくなってきた。
江蘇省でも南通鋼鉄をはじめ多くの企業が淘汰対象として閉鎖に追い込まれており、上海市でも環境に良くない設備が廃止されたり、宝山製鉄所の設備が辺境である新疆ウイグルへ移転させられた。
来年1月には、環境保護法改正案が施行される。
日本がGDP世界第2位になったのは1968年、公害対策が本格化したのが1970年であったことを思い起こすと、世界第2位のGDPになった中国も、環境対策にいよいよ本腰を入れてきたと感じる。