蟷螂の斧

-河野太郎議員の電力システム改革論への疑問①-


国際環境経済研究所前所長

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電力自由化で家庭用電気料金はどうなるのか?

 以下は、2013年12月16日放映 BSフジLIVE プライムニュース 「エネルギー基本計画で原発ゼロは実現可能?」での同議員のご発言である。

(電力システム改革の是非を問われて)

大手の企業に対して、電力会社はkWhあたり7円で電力を売っているんです。これは家庭料金と比べてはるかに安い値段です。何でそんなことをやっているかと言うと家庭からたくさん料金をいただいて、安く大手に出しています。自由化をすれば、家庭料金にそんなことはできなくなりますから、料金はきちんと下がっていくことになります。そこはどういう制度設計にするかによって、現在よりも上がるところがある。当然kWhあたり7円で買っているところは、自由化をしたら上がるかもしれない。しかし、家庭は間違いなく下がっていくことになるだろうと思います。(番組ホームページのテキストアーカイブを引用したが、明白なタイプミスと思われる部分は筆者の判断で修正した。)

 議員の話を聞いた視聴者は、ああ、大口の買い手には(同じ単位当たり製造原価であっても)一品当たり安い単価で販売する「大口割引」のことだなと思うだろう。そして、家庭は、電力会社が大手企業や工場に対して安くした分しわ寄せを受けて料金が高いのか、それは不公平じゃないかと思ってしまうにちがいない。議員の「家庭からたくさん料金をいただいて、安く大手に出しています」という発言自体はおかしくない。確かに、大口需要家の電気料金単価は家庭用の電気料金単価よりも安い。しかし、これはいわゆる「大口割引」とは全く違うのである。というのは、大口電気料金と家庭用電気料金とは、そもそも製造原価が違うからだ。図1でこれを説明する。

(出所)日立製作所ホームページから転載した図を筆者が加工 
(出所)日立製作所ホームページから転載した図を筆者が加工 

 図中で「大工場」と表記されているいわゆる大口需要家は、22,000~154,000Vという高い電圧で電気を受電する。家庭用需要家は図中で「住宅・商店」となっているが、100~200Vといった低い電圧で電気を受電する。発電所から高電圧で需要地に送られてきた電気は、順次電圧を下げながら需要家に届けられるが、高い電圧で受電する需要家は電圧を下げるステップが少なくてすむ。したがって、より少ない設備、すなわち、より少ない費用で電気を供給できるのである。図1で言えば、赤い破線で囲んだ部分の設備は、家庭用需要家向けの供給には必要だが、大口需要家向けの供給には不要だ。もしも大口需要家がこれらの設備の費用を負担させられるような料金設定になっていたら、大口需要家から電力会社や政府に苦情が殺到するに違いない。