経済成長を前提としたCO2排出削減の行動を求めている
IPCC 第5次評価報告書の大きな矛盾
久保田 宏
東京工業大学名誉教授
一方、2010年の世界平均の一人当たりのCO2の年間排出量は4.45 t /人で、先進国(OECD)の平均9.96 t/人に対し、途上国(非OECD)は3.02t/人とある(文献5 )から、大雑把に言って、先進諸国は、化石燃料消費を2010年比で、平均で約1/2に削減しなければならないが、途上国は平均で約1.5倍の増加が許されることになる。すなわち、途上国の化石燃料消費の増加量分が先進国の削減量でほぼキャンセルされて、地球の年間化石燃料消費量は増加しない。ただし、これらの目標数値は今すぐと言うのでなく、今世紀末までの90年間の平均値として達成すればよい。とは言っても、先進諸国にとっては厳しい数値目標になるが、現在、CO2排出削減のために用いられようとしている先進国と途上国の間のCO2排出権取引の方策に比べて、また、IPCCが、今回の第5次評価報告書第三作業部会が求めている「2050年までに、CO2の排出に対して、2010年比で最大70 %削減、世紀末にほぼゼロかマイナスに(朝日新聞4/15から)」との科学的根拠の不明な目標値に比べれば、はるかに筋の通った現実的な目標と言ってよいと考える。
経済成長を抑えることこそが、人類社会とともに日本の生き残る途でなければならない
IPCCは、その第三作業部会の報告書のなかで、温暖化の脅威を防止するCO2排出削減のためには、化石燃料の燃焼排ガス中のCO2を抽出・分離・埋立てるCCS技術の適用が必要だとした上で、石炭火力発電所の排気ガスに、その適用を義務付けるべきだと提案している。このCCS技術は、人為起源のCO2による地球温暖化が問題とされるようになってすぐから、その開発が進められており、大幅なCO2の排出削減の方策としては、現状で最も経済的な方法だとされている。
しかし、このCCS技術は、現状の経済成長を前提にした化石燃料の大量消費を容認した上でのCO2排出削減の方策である。IPCCは、このCCS技術を使っても、「将来見込まれる経済成長の伸び率が1 % 押し下げられる程度で済む」としているが、経済成長にはエネルギーが必要である。したがって、CCS技術を使っての経済成長の継続では、経済力があり、化石燃料資源を持つ国と、それを持たない国との間に、エネルギー消費量の配分に大きな格差が生じ、それが、エネルギー資源の奪い合いの国際紛争に発展しかねない。エネルギー資源をもたない日本経済にとっては、高騰する化石燃料を輸入した上で、CCSにお金を使う余裕はどこにも見当たらない。
先進諸国が率先して経済成長を抑制することで、地球上に残された化石燃料を、できるだけ公平に大事に使う「脱化石燃料社会」を創る(文献6参照)ための平和的な共存を世界に訴えることこそが、世界、人類に求められるべき途でなければならない。 それは、また、国内においては、貿易赤字と財政赤字の二重苦にある日本経済を救う途でもある。
補遺;今世紀末までのCO2排出総量と年間CO2排出量
IPCCが深刻な地球温暖化の脅威が起こるとしている2012~2100年の間の累積CO2排出量 7 兆トンをもたらすとした場合(以下、排出総量7兆トンの場合と略記)の世界の年間CO2排出量の値を推定・概算した2055年および2100年の値を、IEAにより公表されている(文献5 )1971~ 2011年の実績値と結んで図A1に示してみた。ただし、計算を簡略化するため、年間CO2排出量は、2012年から今世紀末まで直線的に増加すると仮定した。図A1には、また、もしCO2の排出に起因する温暖化が起こったとしても、地球上の平均地上気温上昇幅を、本稿のはじめに記したように、私どもが何とかつき合っていける2 ℃以内に抑えることのできるとされるCO2排出総量4兆トンとした場合(以下4兆トンの場合と略記)の、上記と同様に計算した2055年および2100年の年間CO2排出量の値も示した。
この図A1に見られるように、総排出量 7 兆トンの場合は、年間CO2排出量実績値での、2000年代に入ってからの主として発展途上国の急速な経済成長に伴う化石燃料消費の増加がそのまま継続するとして、化石燃料資源量の制約を一切考慮せずに、2000年初期の実績値の延長線上で、その消費が起こるとした場合のCO2排出量の値と見ることができる。一方、総排出量4兆トンの場合の年間CO2排出量の予測値は、前世紀後半のCO2排出増加の延長のようにも見えるが、今後、まだ多少のCO2排出量増加が継続してもIPCCが訴える温暖化の脅威を与えるような値には程遠いことを示していて、いま、化石燃料の枯渇が言われるなかで、世界が協力して経済成長を抑制して化石燃料消費の節減に努力すれば、CO2総排出量4兆トンの目標は、十分、実現可能であることを示しているとみてよい。
図A1 世界のCO2排出量の実績値(1971 ~ 20111 年)と今世紀末までの総排出量を
想定した場合の排出量の推定値(IEAデータ1-1)の実績値を基に作成)
- 1.
- 久保田 宏:IPCC第5次評価報告書批判――「科学的根拠を疑う」(その1)地球上に住む人類にとっての脅威は、温暖化ではなく、化石燃料の枯渇である、ieei 2014/01/15
- 2.
- 久保田 宏:IPCC第5次評価報告書批判――「科学的根拠を疑う」(その2)地球温暖化のCO2原因説に科学的根拠を見出すことはできない、ieei 2014/01/21
- 3.
- 久保田 宏:温暖化よりも怖いのはエネルギー資源の枯渇だ、ieei 2014/03/14
- 4.
- 久保田宏:地球温暖化対策の不要が、「脱化石燃料社会」への途を開く―ポスト京都議定書の国際協議に向けて、ieei 2014/05/07
- 5.
- 日本エネルギー経済研究所編:「EDMC/エネルギー・経済統計要覧2013年版」、省エネルギーセンター、2013年
- 6.
- 久保田 宏:脱化石燃料社会、「低炭素社会へ」からの変換が地球を救い日本を救う、化学工業日報社、2011年