欧州のエネルギー・環境政策をめぐる風景感(その4)


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授

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 他方、ポーランドのトウスク首相はファイナンシャルタイムズへの寄稿で「ロシアへのエネルギー依存に終止符を打つべく、欧州エネルギー連合(European Energy Union)を構築すべき」と提案した。その主要なポイントは

ロシアからの天然ガスをEU全体で一括購入する主体を設立
EUのどこかの国がガス供給をカットされた場合、他国がこれを支援するメカニズムの構築
ガスプロムへの依存度が非常に高い国の備蓄施設、他国とのパイプライン建設コストのファイナンスを最大75%までEUが支援
EUの国産化石燃料資源(石炭、シェールガス)を最大限に活用
EUの共通エネルギー市場を東方パートナー国(アルメニア、アゼルバイジャン、ベラルーシ、ウクライナ、モルドバ、グルジア)に拡大

である。上記の諸点の中で、エネルギー環境政策の観点から興味深いのは「国産化石燃料資源の最大活用」の部分である。寄稿の中でトウスク首相は「In the EU’s eastern states, Poland among them, coal is synonymous with energy security. No nation should be forced to extract minerals but none should be prevented from doing so – as long as it is done in a sustainable way」と述べている。EUの90年比▲40%目標に対するポーランドを初めとする東欧諸国の反対姿勢とも併せ考えると、「ウクライナ危機でエネルギーセキュリティが欧州のエネルギー政策のトッププライオリティになった。そのためには国内化石燃料資源を最大限活用することが必要であり、温室効果ガス削減目標がそれを阻害するものであってはならない」との考えが垣間見える。

 このポーランドの提案について、ドイツは概して冷淡なようだ。ドイツのエネルギー産業はガスプロムにとっての上顧客であり、両者の関係はもともと良好であることに加え、東欧諸国よりも低い価格でガスを調達している。ポーランドが提案する欧州ワイドでの共同調達というアイデアに関心がわかないのも無理はない。

 いずれにせよ、2000年代を通じて温暖化対応が第1のプライオリティであった欧州のエネルギー環境政策が、欧州経済危機や米国のシェールガス革命を契機にエネルギーコスト、国際競争力格差に関心を移し、更にウクライナ危機によってエネルギー安全保障に焦点がシフトしたことは間違いない。3月の欧州理事会では欧州委員会に対して「欧州エネルギー安全保障戦略」を策定せよとの宿題が出された。

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