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欧州のエネルギー・環境政策をめぐる風景感(その4)


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授


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 バルト三国にはソ連時代の圧制の記憶が、ポーランドには第二次大戦中、ナチスドイツとソ連に分割された記憶が、フィンランドにはソ連との冬戦争の記憶が色濃く残っており、ロシアに対する警戒心は特に強い(ちなみに、昨年リトアニアの首都ヴィリニウスを訪れた際、ジェノサイド博物館に入ってみたところ、ナチスドイツよりもソ連の圧制が展示の圧倒的多数を占めており、外国企業の投資誘致の観点ではロシアへの玄関口をPRしなければならない一方、国民レベルではロシアに複雑な感情を持っていることを思い知らされた)。

 これに対してドイツ、フランス、イタリア等の西欧諸国は、ロシアが冷戦時代も安定的に石油・ガスを供給してきた事実を重視する。特にドイツは冷戦時代から東方政治(オスト・ポリティーク)の考え方の下にソ連との経済関係の強化を図ってきた。東西ドイツ統合は、ソ連の理解がなければできなかったという思いもある。ロシアになってもドイツとの経済関係は強固であり、ウクライナ、ポーランドをバイパスしてドイツに直接天然ガスを供給するノルドストリームの経営陣にシュレーダー元首相が参加しているのはその象徴的事例である。当然ながら、バイパスされたポーランドは心穏やかならざるものがあり、当時のポーランド国防大臣が「(ポーランド分割を密約した)1939年のモロトフ・リッベントロップ同盟の再来だ」と発言して物議をかもした。

 もともと2014年3月の欧州理事会は、そのアジェンダの1つとして1月に発表された2030年に向けたエネルギー・気候変動パッケージを議論する予定であったが、当然ながら、ロシアのクリミア編入、ウクライナ危機に対する対応方針の議論に集中することとなった。その際、上記に述べたような各国間の温度差がEUの対応方針の議論にも影響を及ぼすこととなった。

 対ロシア制裁に関する議論についてはドイツが穏健派、東欧諸国、バルト諸国が強硬派、英国、フランス、イタリアが中間派といった色分けになった。西欧諸国には「ロシアが(ウクライナはともかく)欧州向けの天然ガスを外交カードとして使うことはない」という見方が強い。ロシアにとって石油・ガスの輸出は財政収入の52%にあたり、中でも上顧客である西欧諸国向けの供給制限を行う理由がない。更に政治的理由でガス禁輸などをすれば、報復措置としてロシアの石油・ガス産業に対する経済制裁が本格化し、国際金融市場での資金調達も難しくなる可能性がある。そんな「自分の足を撃つ」ことはしないだろうというロジックである。また西欧諸国の本音としては、LNGよりも安価なロシアのパイプラインガスを使わない手はない。



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